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王子は窓の外を眺めながら説明してくれた。
この部屋からは城下町が見渡せる。
「馬子は馬だけでなく鶏や牛、豚の世話もしている。家畜全般の世話だ。その仕事には屠殺も含まれる。屠殺、血抜き、皮剥ぎ、内臓の処理、肉の切り分け、剥いだ皮の鞣しなど、その仕事は多岐にわたる」
何処の国でも良くあるアレか。
絶対に必要な仕事なのに、何故か屠殺や皮の下処理を行う職能集団は忌み嫌われる傾向にある。
そして意図的に差別の対象とされることも。
同じ事を狩人がしても嫌われないのにそれを専門にするとそうされるのだ。
もちろん差別する側の気持ちも何となくは理解できる。
臭いし、血が出るし、気持ち悪い。
日常的に大型動物を殺しているだなんて、なんとなく気味が悪い。
そういう事だろう。
分かるけど、だからといって身分として固定してお上のお墨付きで差別していい訳じゃない。
彼らがボイコットやストライキを起こしたら肉が食えなくなるのだ。
肉は美味い。
食肉への渇望は俺たちのDNAに刻み込まれているのだ。
身体は自然にタンパク質を求める。
精肉業の入り口に立つ彼らが仕事しなければ俺たちの生活は成り立たないのだ。
「王子自身は彼らの扱いについてどうお考えなのですか?」
王子は振り返った。
「もちろん、なくてはならない大切な仕事だと思っている。だからこそ我は自分で狩り、屠り、食う。それを自分の手で行う事を己に課しているのだ。年に僅か数回の事だが本来は全ての民が経験すべき事だと思っている」
なるほど。
王子が常識のある人間で良かった。
「しかし国を治める立場にある以上、ある程度の不平等や理不尽に目をつむる必要があることも仕方のない事だ。被差別民が居た方が民の反乱は起こりにくいと我々は子供の頃から教わるのだ」
まあ、分かるけどさ、、、。
「被差別民という点では奴隷も同じだな。アーメリア統一の際にも奴隷が争点になって統一が難航した。我らポリオリや聖都カイエンには元々奴隷というものが存在しなかった。だから奴隷制を廃止するという王都の考えには賛同しやすかった」
そうなのか。
「しかし、主に獣族を奴隷としてきた北部は受け入れられず、それが原因でアーメリア統一は難航した」
ふむ、歴史の授業がまだそこまで進んでないからその辺りは全然知らなかった。
「主に北西で未だに小競り合いが起きているのはそのせいだ」
西側は獣族が多いんだっけ。
その辺も根が深そうだな。
「だから、という訳でもないがオミ。我を責めるような目で見るな」
驚いた。
俺は王子を責めるような目で見ていたか。
「とんでもありません。王子のお話、よく分かりました。口にしにくい歴史を教えて頂きありがとうございました」
「うむ」
気づくと戸口にメイドさんが立っていた。
王子の話が終わるのを待っていたらしい。
「お話し中に失礼します。リサ様は本日、奥様をお訪ねに宮に参られてございます」
そういえばそんなやりとりをしてたっけ。
「そうか、では呼びつける訳にもいかんな。了解した」
メイドは軽く頭を下げて立ち去った。
母親とはいえ王妃に当たるのだから邪魔をしては不味いのか。
俺だったら母ちゃんの邪魔をすることに何の抵抗も感じないが、庶民の母親とは訳が違うか。
「おそらく夕食までは掛かるだろう。その時に姉君に夜の約束が取り付けられたら呼びにやる。それでいいか?」
「はい、もちろんです」
知らなかったが晩飯は家族一緒に摂ってたのか。
そりゃそうか。
家族だもんな。
「ではお主が何故毒に詳しいかは置いておいて、今のうちに聞いておきたいことなどあるか?」
そういえばそんな話だった。
そして非常にありがたい。
聞きたいことがあったのだ。
「あの、アレッシア姫のことなのですが」
「うむ」
「僕はなんで急に騎士になるなんてことになったんです?」
いつも有難うございます!




