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 そうかミカエル氏はそっち系だったか。

 王子も別にそこには引っかかってないようなので珍しくはないのだろう。


「その書生さんはどんな方なんです?」

「名をノエといって戦争孤児だそうでな。部屋からほとんど出てこなかったし戦争孤児というのもミカエルの言葉を信じるしかない」


 いかにも怪しいのが出て来たが、なんにも情報がないのでは扱いようがない。


 部屋を見て回ると確かにグラスは二脚あるし書き物机には椅子がやはり二脚ある。

 飲み残しのワインボトルはそのまま。

 一応コルクを抜いて匂いを嗅いでみるがもちろん何も分からない。


 窓の横にある衝立を覗くとそこにはトイレがあった。

 そのトイレは俺の部屋のように、そこに置いてある物ではなくて作り付け。

 座面の穴からはそのまま城を囲むお堀の水面が見えていて水洗便所と言えなくもない。

 俺の部屋のトイレと同じく大きめな木の葉っぱが積んであるのはそういう事だ。


 このフロアの他の人の部屋はあまり詳しく見て回ったりしてないけど、みんなこのトイレ方式なのだろうか。

 あとでルカ氏の部屋のトイレを見せてもらおう。


 そんなことばかりが気になって有効な手掛かりなんか全く見つからない。

 手紙の下書きとか、血で書かれたダイイングメッセージとかそういうのはナシ。


 そもそも誰も死んでないしね。


 本もない。

 服もない。

 これと言った家財道具もない。


 というか、この世界の人はあんまり物って持ってないのかも。

 持っててもナイフだの文房具だのは別に嵩張らないから持っていくだろうし。

 本だって馬鹿みたいに高価だから持っていくよな。


 洗面台に置いてある石鹸や壁に設えてある蝋燭台の蝋燭なんかはそのまま置いてある。

 ホテルに泊まってもアメニティは盗まないタイプらしい。


 床にも髪の毛や服の糸くず、その他鑑識さんが喜びそうな物は一切なし。

 多分、昨日の朝にはメイドさんの掃除が入っているのだろうし。

 メイドさんたちはみんな働き者だから例えダイイングメッセージがどこかに残されていてもゴシゴシ消してしまいそうだ。


「ねえ王子、この部屋の掃除に入ったメイドさんは何も見ていないんですかね? その時のゴミとかに何か重要なメモがあったりは、、、?」


 ベッドの下を覗き込んでいた王子が振り返らずに答えてくれた。


「この部屋は『書生が掃除をするから』とのことでメイドの掃除は入らないことになっているそうだ」


 おお、クローズドサークル!

 て訳じゃないか。

 俺は名探偵の素養は全然ないみたいだな。


『事件とは名探偵がいる所に起こるものだ』

 って薔薇十字探偵社の探偵さんが言ってたしな。


 俺は手掛かりを見つけるのは諦めて腰を伸ばした。

 背を屈めて床を見ていたからか腰がツラい。


 まだ見ていなかったドアの内側に何かないかと指を這わせてツツツとやりながら見てみたが、やはり何もなし。


 嫌な奴だったけどミカエルは頭が良さそうだし俺なんかに見つかる手掛かりなんか残す訳ないよな。


「王子はどうです?」


 部屋の中を振り返って改めて部屋の全貌を見ると微妙な違和感を感じた。


「ふーむ。分かってはいたが、特に何もないな。終わりにするか」


 ちょっと待って欲しい。

 今感じた違和感が何なのか自分でも分からない。


「どうした、オミ?」

「ええと、なんですかね。今部屋を振り返って見た時になんか違和感を感じたんですよ」

「どれ」


 王子も俺の横に並んで部屋を見た。


「ああ、確かに何か変だな」

「何ですかね?」

「家具の配置だな。何故机がこんなに前に迫り出している。バランスを考えるなら部屋の中央に置きたくなるだろう? なんなら明るい窓の近くに寄せたい筈だ」


 確かに机がドアに寄っていて後ろが広く空いている。

 テレジオ氏の部屋は書き物机は最奥にあり、手前は来客用のソファが置いてあった。


 そして書き物や読書には実際暗かったのだろう。

 三又の蝋燭台が二脚も机に置いてある。


「後ろに本棚か何かあったんですかね?」

「逃げる時に本棚は流石に持っていかぬだろう?」


 俺たちは窓際に近寄った。

 壁際をよく見てみるが壁紙と違って石壁は日焼けとかしないからよく分からない。

 床を見ても絨毯じゃないから本棚の脚の凹みとかも残らない。


 しかし俺は見つけた。

 フローリングの隙間に微かな白い痕跡を。


 なるほど壁にもよく見れば俺の閃きを補完するモノが残されていた。

 雑巾で拭き取ろうと擦ったのであろう縒れたソレが荒い石壁のざらつきに絡まっていた。


 やはり俺は名探偵だったかもしれん。

 真実は、きっとたぶん、ひとつ!


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