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 階段を降りてさっきの式典をやったホールに三人で足を踏み入れた。

 バルベリーニとポリオリの魔術兵の交流会は大変盛り上がっていた。


 見ると中央の小ぶりな丸テーブルを主戦場に腕相撲大会が開かれていた。

 魔術兵とはいえ、いざとなったら力勝負の軍人だものな。

 そりゃ盛り上がるわ。


「酒は足りておるか?」


 長官がそう声を掛けると兵士たちは一瞬静まり返り、その後に大歓声をあげて長官を歓迎した。


 割れんばかりの「うぉー!」の後には「ほっほっほっほ!」の掛け声。

 ノリが体育会系で陽キャだ。

 というか、酔っ払いだ。


 長官が人差し指をあげると皆黙る。

 そこで長官が口を開いた。


「クラウディオから諸君らに労いの言葉がある」


 またもや大歓声。

 王子がワインの樽に登って手を挙げるとさっきのうぉーからのほっほっほが起きた。


 王子も指をあげて皆を黙らせる。


「先ずは我がポリオリ兵。今年はコウモリの来襲という想定外の事態が起きたが、皆よく隊列を崩さずに耐え切った。距離こそ昨年ほどには伸びなかったがそれは仕方あるまい。己らの日頃の研鑽を誇ってよいぞ!」


 またもやうぉーからのほっほ。


「そして我が隣人、バルベリーニの諸君。諸君らが毎年その技に磨きをかけて挑んで来るものだから我々は一切気が抜けない。これからも良き好敵手であってくれ!」


 うぉーからのほっほ。


「もうひとつ。隣国である我らの歴史に於いて領土問題を持たぬ事は非常に稀有で価値のある事だ。それもひとえに諸君らが高潔であるが故に達成できているのだと私は信じている。諸君らには礼を言いたい!」


 またもやうぉーからのほっほ。


「しかしだ! 来年こそは我がポリオリが諸君らを完膚なきまでに撃ち負かすつもりだ。覚悟して事に及んで欲しい!」


 歓迎だか罵倒だか分からない物騒な歓声が上がり皆が拳を振り立て、床を足で踏み鳴らした。


「我々の友情に! キップス!」

「キップス!!!!」


 もはやどんちゃん騒ぎだ。

 長官も大概だがクラウディオ王子も相当な盛り上げ番長だな。

 相手のことを褒めておいて煽って終わるなんてどういう演説だよ。


 ふたりはあっという間に兵士たちに囲まれ、握手をしたり肩を叩かれたり大変である。


 ホールを出てから王子に聞いてみたが、上の二人の王子はこのように下々と触れ合ったりはしないらしい。


「なんでなんです?」

「まあ、役割分担だな」

「役割分担」

「俺が領主になることはまずない。あのふたりが領主と宰相を務めるだろう。政治を行う者は時に、その部下に死ねと命ずる必要が出てくる。その判断に迷いが出てはならない」


 仲良くして情が湧いたら困るってことか。


「そして兵たちには命を投げ出す心のよりどころにする象徴のようなものが必要だ。かつては母君が、そして姉君がそれだった」


 国を豊かにした立役者だからか。

 それに俺も、誰かに死ねと命令されるならよく知らないおじさんからよりも可愛い女の子からの方がいい。

 断然いい。


「いつか俺がそのシンボルになれ、と姉君に言われたのだ。ポリオリを守るため、強い軍隊を率いるためには、その命を賭して戦う価値があると信じさせる必要があるのだ」


 これが帝王学か。

 いや違うかも。

 でも俺もこういう為政者ならついて行こうと思えるかも。


 さすが長官。

 そしてさすが王子。


 なろうとしてなれるものではないよな。

 それにアレッシアの覚悟も大したものだった。


 なんか俺、王族ってもっと無責任で横暴なものだと思ってたよ。

 無知を恥じたい。


 そうふたりに言ったら、大抵の王族は無責任で横暴だってさ。

 世も末だな。


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― 新着の感想 ―
うーむ。最初は言うて小国の元王族やろ?と思って(侮って)ましたが、読めば読むほどしっかりした王族ですね。
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