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 長官が後を引き継いでくれた。


「兵を運用する時の事を思い出してみよ。読み書きのできる部下は物分かりが良いだろう?」

「はい」

「それが三歳の子供であったらどうだ?」

「子供では無理です!」

「そうだろう? 民を見て子供のように無邪気で愚かだと思う事はないか?」

「、、、、」

「学のない民たちは、噂話に惑わされてばかりいて考えれば分かることを考えようともしない」

「、、、、」


 王子は首肯もしなければ反論もしなかった。


 ロジックとしてどうかと思うがこれで伝わったらしい。

 王族でないとわからない何かがあるのだろう。


「オミよ、済まぬ。話の腰を折ってしまったな。続きを頼む」


 ええと、なんだっけ?


「教会が貧弱救済と読み書きを教えるのを担っていたという話だ」

「ああ、そうでした。その後、アーメリアが建国して生活が安定しました。読み書きを教えるのはギルドが引き継ぎました」

「そうなのか?」


 え、違うの?

 俺は長官を見た。


「ど田舎ではそうだ。人口の多い街では学舎が作られた。イリス教会が主体になって国が補助している」

「ふむ」


 そうだったのか。

 知らなかった。


「じゃあ、それはそれとして、、、ある時期からイリスは水の販売を始めました。天国に行きたいならイリス湖の水を飲め、と」

「学舎でも子どもたちにそう教えているようだ」


 長官が補強してくれた。

 王子が疑問の声を上げる。


「確かに僕もそう教えられました。今まで考えたこともありませんでしたが、それは間違った教えなんですか?」

「間違ってはおらん。イリス教の原典からしてそう記されている。しかし考えてみよ。エルフから逃げ、放浪の旅を長年続けてカイエンに辿り着いた民がやっと見つけた誰の物でもない水なのだ。神聖視する気持ちは痛いほど理解できる」


 王子は頷いた。


「しかしそれが本当に神聖で最も大切なモノかと問われれば、、、という事ですか?」

「そうだ。人類独立と貧弱救済が本懐なのではないかと疑問の声が出るのも当然だろう?」

「なるほど、しかも自分たちが運営する学舎でそのように教えているとなると、それ自体が水を売る為の方便のように思えて来ますね」


 満足げに長官が頷いた。

 王子が拳を握る。


「なるほど、、、しかし、そんな事になっているとは、、、」


 王子の顔色は悪い。


「我々がそんな事に加担していたとは気づきませんでした」

「仕方あるまい。民を飢えさせる訳にはいかんのだ」

「しかし、、、」


 王子は随分と深刻に捉えてるな。

 しかしまだこれは話の結論ではないのだ。


「王子の言う通り、北部から見ればカイエンとポリオリは互いに要塞国家である事を利用してタッグを組み国教を牛耳り金儲けに勤しんでいる悪徳国家のように見える訳です」

「まさか! 我が国の財政はそんなに甘くないぞ?!」


 長官が王子に語りかけた。


「広い広い土地を丸一年間苦労して世話をして収穫した麦が一袋銅貨二枚。それに引き換え、湖の水を汲んで坊主が祈ってガラス瓶に詰めただけで一本金貨一枚だ。奴らの言い分も理解できよう?」

「、、、、、」


 さて、さっきの王子の問いだ。


「では進みますが、バルベリーニを制しますと、、、」

「カイエンとポリオリの両方を封じる事ができると、そう言うことか」


 ビンゴ!

 長官が引き継ぐ。


「ついでに言うならおそらくバルベリーニも、ただの農業国のクセにカイエンとポリオリの両方から通行料を取ってボロ儲けしていると思われているだろう」

「確かにそう言われればその通りです。アイツら馬車一台に大銅貨一枚などと暴利を貪りおって、、、」

「乗せられるな。民のために作られた道を使わせてもらうのだ。道の維持には金が掛かる。他国と比べてバルベリーニはちゃんと道が整備されているし、山賊狩りも魔物狩りもしっかり行われている」


 そうだったのか。

 道が悪くて追い剥ぎやら魔物やらが出たら最悪だろうな。


「では、バルベリーニは、、、?」

「今も我々の友好国であることに変わりはない。実際、攻め込んで来なかったではないか。私が居なくとも結果は同じであっただろう」

「そうでしたか」

「戦というのは不確定要素が非常に多い、危険な賭けだ。よっぽどの勝算と周囲の同意がなければ踏み出せるものではない」


 ヴィート氏のクセがちょっと強いけどね。


「では王都が我々三国を罠に嵌めてイリス教会を潰そうと?」

「どうだろうな? 王都も一枚岩ではないしな」


 ここでまた口を挟ませてもらう。


「これは僕の想像ですけど、これはいわゆる宗教改革を求める動きなのだと思うのです」

「宗教改革?」

「ええ、イリスの水を飲まなければ天国に行けないというなら貴族以外の普通の民は天国に行けないという理屈になります」

「うむ」

「金の無い民はどう思うでしょうか? 『人族を救うのがイリスの存在意義だろうが、無料で配れ』と思う訳です」

「流石にそれは無理がある。イリスの水はタダかも知れんがガラス代も運搬費も掛かるのだ」

「『だったらイリスの教えは信じない。どうせ天国には行けないのだから』と民は思うでしょう。すると、この世はどうなりますか?」

「大混乱だ。犯罪が横行するだろう」


 ところで、イリスの教えとは何か?

 俺がポリオリに来た時に問われたイリスの禁忌というやつである。


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