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「国ひとつを支える程の? 莫大な支出だぞ?」
「ええ、長官の価値はそれくらいあります。むしろ長官を手に入れればポリオリを支える支出は無くなります」
「何だと、、、」
身内だと逆に分かんねえか。
いや、この狭い国にいると見えて来ないか。
「まず、長官には兵器としての価値があります。魔眼を持っていて魔力を見ることができ、古エルフの魔術を使えます。その威力たるや巨大な竜巻を一瞬で消し、船の何倍もある海の怪物を一撃で屠る力があります。新たな敵に備える意味でも、王都との交渉力を高める意味でも是非手に入れておきたい兵器です」
王子は改めて長官を見た。
長官は少し胸を反らした。
「次に海軍での功績です」
「海軍?」
あ、海軍はまだ無いんだっけ?
「えっと、これから海運は非常に重要な通商ルートになります。馬車では運べぬ重い荷を一度に大量に運べます。今はまだ船を大々的に使っているのは軍だけですがいずれ民間にも広がります」
「海運と言ったのか。船舶輸送のことだな」
良かった。
聞き間違いで納得してくれた。
「そうです。長官は造船から指揮運用までの経験があります。近い内にこの新たな通商路が莫大な富を生み出すでしょう。長官がこの若さで国軍で東方統括部の長に任命された所以です」
「なんと、、、」
長官は弟から尊敬の目を向けられて鼻高々だ。
「それだけではありません。忘れてはならないのは長官はエルフの里に逗留し魔術を教わることを許された稀有な人族だという事です。彼らと話をすることができるチャンネルを持つことがどれだけの価値を持つかは今の我々には測ることができません」
「確かにそうだ、、、」
長官を見る王子の目はもはや尊敬を超えて畏怖になりつつある。
長官は腕を組んでみせた。
「実は凄いのはここなんですが、そんな人類最強の価値を持つ人物であらせられるのに、どの派閥にも与せず独立を保っていることです!」
ちょっと俺も熱くなってきた。
言語化するとやっぱスゲエよな、長官。
「ちなみにヴィート氏が長官との結婚を成功させた暁には、長官にポリオリでの魔石の採掘を再開することを指示するでしょうね」
「だろうな。確かにまだ魔石の鉱脈は残っておるしな」
「そうなのですか?!」
「うむ」
「そうでしたか、、、。姉君を手に入れればポリオリも没落しないと」
「はい、なので長官と落ち葉はらいをしながらそのままポリオリに攻め入るというのは考えにくいんです」
きっと良いとこを見せて気に入られるよう必死だったに違いない。
「オミに言われて改めて気付いたが、姉君の価値は凄まじいな。むしろ良くぞ王都の奇々怪界に取り込まれずにおられるものだ、、、」
「実際、長官を下に置きたいお偉いさんたちがあの手この手の策略を仕掛けて来ているらしいですよ」
王子と俺の両方に褒められて流石に少し照れたのか長官は頭を掻いた。
「まあ、それくらいにしろ。私は自分が自分勝手な姉であることの自覚くらいしている。実際、今も本当にヤバくなったら故郷を捨てて逃げるつもりでいる」
莫大な力を持ちながら、それを家族や生まれ故郷に役立てることが出来ないことを気に病んでいるのだな。
やっぱ長官は優しいな。
「いえ。確かに父の側にいてもっと支えてくれればと思ったこともありましたが、そんなことをすればそれこそポリオリが各国に狙われることくらい想像が付きます。出過ぎた杭は打たれるものです」
長官は満足げに頷いた。
「それが分かるようになればお主はもう一人前だ。クラウディオよ」
王子の目が輝いた。
いいなあ。
兄弟が仲が良いのは心が温まる。
俺もこんな風に尊敬される兄でありたかった。
いや、違う。
こんな話をしていたんじゃなかった。
何だっけ?
「ええと、すみません。何の話をしていたんでしたっけ?」
長官が軽く噴き出した。
「忘れるな。ミカエルの思惑についてだ」
「ああそうそう、そうでした!」
王子に睨まれた。
王子はちゃんと覚えてたのか。
「という訳で、もっと背後に別の大きな計画があるのでは? という事なのです」
長官と王子が同じように片眉をあげた。
こう見るとおんなじ顔してんな。
「ミカエル氏は自分で王都からの使いと言ってましたよね?」
「うむ」
「それが本当なら王都からの指示であった可能性が高いということです」
二人は同じように腕を組んだ。
「王都が我々を滅ぼそうと?」
「いえ、王都には我々を滅ぼすメリットもこれまた無いように思います」
「では何だ? 私か?」
俺は首を振った。
長官を脅してコントロールするのに、故郷が人質としてあまり効かないことは首脳陣は既に把握しているだろう。
「これは僕の想像に過ぎませんので話半分で聞いて下さい。あと他言は無用です。アダルベルト様にも兄上方にも暫くは内緒でお願いします」
「よかろう」
俺は深呼吸してから俺の考えを口にした。
「おそらく狙いはカイエン。というかイリス教会です」
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