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 数度の休憩を挟みようやくポリオリに戻ると領民から歓声をもって迎え入れられた。


 もう夕方近い。


 普段は城壁の外で暮らす農民たちも押し寄せて凄い人数が沿道に並んでいる。

 花吹雪こそ舞わないがやはりなんだか嬉しいしこそばゆい。

 背後からひときわ高い歓声が聞こえてきて振り返って見たら、バルベリーニの王子と一緒に長官が居るのに皆が気づいたようだった。

 やっぱ人気なんだな。


 件のドワーフの工房の前を通りかかったらオラヴィ、シリリャ、イェネクトの三人が飛び跳ねて手を振ってくれた。


 城に戻ると先に戻っていた騎兵たちのお出迎え。

 俺たちはそのまま裏手の厩舎まで馬を戻しに行くが、バルベリーニからの来客の馬は正門辺りで預かってこちらに連れてくるようだ。

 馬子たちはてんやわんやである。

 普段は見かけない人たちまで参加して馬と馬車を捌いている。


 そうかそうか。

 スカスカの厩舎とか使ってない馬場とかって場所が余ってたんじゃなくて来客用だったのか。

 なにしろ普段の倍の馬の数だ。鞍を外すだけででも大変そうだ。


 顔見知りの馬子さんに手綱を渡し、そのまま手伝おうとしたら叱られた。


「オミさんは早くクラウディオ様のお部屋へ!」

「え?」

「お気づきじゃないですか? お髪やお耳が泥だらけですよ?」


 ああ、コウモリの返り血か。


「そんなナリで王子のお付きはできませんて!」


 急かされて俺は城に向かった。

 普段は使わない裏口から入る。この辺に歩兵の詰め所があるのか歩兵たちが多く出入りしている。

 みんな裏口前の水路で水浴びをしていた。

 何人かが俺を憐れむような目で見て肩をポンと叩いてくる。


 この辺の連中は俺の顔なんて知らないから王子に生き餌にされた可哀想な馬子だと思われてるのかもな。

 帰って来る道すがら例の二人に聞いたのだろう。

 なんにせよ労われるのはありがたいので、ありがとうございますお疲れ様でした、と頭を下げながら通り抜ける。


 どうやら俺は頭を下げずに生きていくことはできないらしい。


 王族のフロアに上がる階段のあるホールに足を踏み入れると執事二人が俺を見てギョッとしたような顔をして黙って取り囲み、来客から見られないように階上へ連れて行かれた。


 そうか、王族が使う場所に血で汚れた馬子なんかが居たら場違いだよな。


「なんか済みません」

「いえ、後は分かりますね?」

「はい。王子の部屋は知っています」

「それでは」


 執事二人はまた階下へ戻っていった。

 俺みたいな身分がアレなのが居ると色々と想定外なんだろうな。


「遅くなりました。オミです」

「入れ」


 クラウディオ王子の部屋に入ると部屋の端に風呂桶が置いてあった。

 浅い楕円の桶のような感じ。

 衝立で一応隠せるようになっている。

 その横にはメイドさんが二人。


 王子は湯浴みはもう終えたようで髪が濡れている。


「俺が使った後で済まんが、汚れを落としておけ」

「はい」


 はいと返事をしたは良いが、どうしろと?

 固まっているとメイドさんがお辞儀したのでフラフラとそちらへ向かう。

 手で示されたので椅子に腰掛けると向こうも固まった。


「あの、ブーツをお脱ぎください」

「ああ、ですよね!」


 慌ててブーツを脱ぎ、立ち上がってカソックの腰紐を解く。

 どこまで脱げば良いのだろうか?

 おそるおそるカソックを脱ぎ、サスペンダーを外し、ズボンを下ろす。

 脱いだ服はメイドさんが受け取ってくれる。


 俺はパンツの紐に手を掛け、メイドさんを見た。

 すると頷かれたがどういう意味だろう。

 履いたままでいいのか脱ぐべきなのか。


「ええと、、、」

「どうぞお脱ぎください」

「あの、見られていると脱ぎにくいのですが」


 メイド二人が背を向けたのでパンツを下ろし、湯船に足を踏み入れて腰を下ろす。


 一人はパンツを拾い上げ、俺の服をまとめて出て行った。


 ああ、逆が良かった!

 年嵩の方が出ていき、若くてキレイな方が残ってしまった。

 チェンジで、とか言ったら失礼だよな。


「ではお髪から失礼します」

「あの、自分でできますので、、、」

「失礼ですが自分の髪がどうなっているかご存知で?」


 手で触れてみると血が固まりガチガチになっていた。

 王子のウォーターボールでは落とし切れてなかったのか。

 乾かないうちにしっかり落としておけば良かったんだな。

 血を頭から浴びるなんて初めての経験だから分からんかった。


「すんませんお願いします」

「喜んで」


 メイドさんは俺の後ろに回り髪にぬるいお湯をかけ始めた。

 頭からかぶるには冷たくて寒い。

 俺は黙って魔術で湯船に溜まったお湯を温めた。


 ピクリとメイドさんの手が止まる。


「あ、すいません。ちょっと温め直しました」

「いえ、大丈夫です」


 衝立の向こうからクスリと王子の笑い声が聞こえた気がした。


 王子め面白がってやがるな。

 それでもちょっと気が楽になって俺はメイドさんに身を任せることにした。


お読みいただきありがとうございます!

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