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「長官?」

「姉君?」


 バルベリーニ領の面々は石畳にあいた穴を覗き込んだりしながらこちらの兵と挨拶をしている。


「久しぶりだなクラウディオ。随分と男らしくなったな」

「姉君! どうされたんです、こんな所に!」

「驚かせようと思ってな。バルベリーニの落ち葉はらいに参加させてもらったのだ」

「姉君、しかし、、、」


 バルゲリス長官は人差し指を立て、王子を黙らせた。


「クラウディオ。お主は王子の役割を果たせ。落ち葉はらいはまだ終わっておらん」


 見ると騎乗の人物がこちらに向かって来ていた。

 バルベリーニ領の王子か何かだろう。


 クラウディオ王子は深呼吸をして髪をかき上げると背筋を伸ばしてそちらに向かった。


「おいオミ、さっきのはお前か?」

「ええまあ、ちょっと、、、」

「それになんだ、身体中傷だらけではないか?」

「少々コウモリに襲われまして」

「噛まれたか?」

「いえ、引っ掻かれただけです」

「ふむ」


 俺は立ち上がった。

 衛生兵が駆け寄ってきた。


「お話中に失礼します。オミさんが脱がれた服です」

「あ、ありがとうございます」


 シャツはなかったけどそれでもありがたい。


「カソックではないか」

「これカソックっていうんですか?」

「ああ。坊主の服だろう」

「やっぱそうですよね」


 俺は頭からカソックとやらを被って腰紐を縛った。


「イリスのカソックは立襟だから全然違うがな」

「これはフード付きですもんね。馬子の服だって言ってましたよ」

「ああ、そういえばそうだ。懐かしいな」


 長官は目を細めた。


「そういえば、コウモリなんですけど爪で引っ掻かれただけなら大丈夫ですよね?」

「む、どうであろう? 知らぬな。一応、傷のひとつひとつを焼いておくか?」


 長官は指先にキャンドルを灯した。


「ちょっと! 冗談にしても怖すぎますよ!」

「良いではないか、ちょっと焼かせろ。ほら脱げ」


 キャッキャしてたら王子が戻ってきた。


「オミお前、本当に姉君と仲が良いんだな」

「お慕いしてますから」

「弟子だからな。挨拶は終わったか?」

「はい。後は城に帰り開通の儀と祝賀会を行うだけです」

「うむ、では私はバルベリーニ隊と向かうとしよう。先導を頼むぞ」

「はっ!」


 長官は戻り、俺たちも自分の小隊の元へ向かった。

 割と元気そうだったバルベリーニ隊と比べ我々は見るからに疲労困憊。

 髪はボサボサ。服は血まみれ。脚ガクガクのヘトヘトだった。

 しかも馬も馬車も捨てて来てしまった。


 城まで走って帰るのか、、、、


 俺はゲンナリと肩を落としたが、王子はクッと顎を上げ直立した。

 それを見た副隊長が号令をかける。


「第四小隊、整列!」


 俺を含めて慌てて整列をする。


「静聴!」


 王子が口を開いた。


「諸君らは本日、死力を尽くして戦った! ここは戦場ではないが、我々は数限りない魔物を倒し、回廊を切り拓いた! 胸を張れ! 顎を上げよ! 今日のことは末代まで語って聴かせよう! 私は諸君らを誇りに思う! 負傷者や魔力切れの者は道をあけて待て。馬車を迎えによこす。健常な者は我に続け! バルベリーニ隊を先導するぞ!」


 王子が拳を振り上げれば応と鬨の声が上がった。


 こうなったら走るしかない。

 王子め随分と盛り上げてくれるじゃないの。


 こういう場面でちゃんと演説ができるのって凄いよな。

 上に立つ人はやっぱ違うわ。


 負傷者と衛生兵が隊列から外れ、残りが二列縦隊を作って駆け出すと前から大量の馬と馬車がやって来るのが見えた。

 見覚えがある。

 第二小隊のベネディクト隊が逃した馬を集めて連れて来てくれたらしい。


「兄君!」

「クラウディオ! 随分と派手に立ち回ったそうではないか。倒れかけと聞いて助けに来たぞ」


 王子ふたりは高らかに笑い合った。

 そしてクラウディオ王子はこう続けた。


「兄君、正直助かります、、、」

「よしよし、後は任せろ。後続、180度回頭!」

「180度回頭!」


 王子もやっぱり疲れてたんだな。

 そりゃそうだ、俺は震えて立ってただけだけど王子はずっと剣を振るっていたんだからな。

 しかも一歩間違えば俺を傷付けてしまうギリギリの剣筋だったのだ。神経を使ったことだろう。

 後でちゃんとお礼をせねば。


 ベネディクト隊はテキパキと働いた。

 馬車から馬を外し、人力で馬車を回頭させた。

 街道は馬車二台がすれ違える広さはあるが馬車のUターンはできない。


 馬車に馬をつなぎ直すと準備完了。魔術兵や歩兵、衛生兵たちが馬車に乗り込んだ。

 馬車は八台来ている。


「まだ乗れるが乗っていくか?」


 ベネディクト王子がクラウディオ王子を揶揄った。


「王族の男児が荷台に乗って凱旋では格好が付きませんよ」

「よし、その意気だ。参るぞ!」


 俺たちは手綱を受け取り馬に跨った。


 王子二人が先に行き、騎兵が続いた。それに馬車が続いて、俺はその後ろに付いた。


 馬子にも衣装と言うが、正に馬子の衣装を着ているのだから他領の目がある今は服の表す身分の通りに振る舞わねばならない。


 最後尾の馬車の荷台に目をやると乗っていたのは歩兵たち。

 俺と一緒に脱がされて生き餌にされた歩兵ふたりも乗っていた。

 俺たちは顔を見合わせると力なく笑い合った。


 つられたのか、馬も横目でこちらをチラリと見てブフフンと笑った。


 やかましいわ。

 さっさと帰ろうぜ。


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