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街道は石畳だった。
バルベリーニ領まではかなりの距離があるようだし山間だから石畳だとは思わなかった。
サナの河原みたいな石材の運搬が容易な場所ならともかくこんな山地まで、、、待てよ?
石切場が近いのか?
王子に聞こうと思ったら前からアルベルト王子率いる第一小隊が帰ってくるところだった。
第一小隊は左右に分かれて俺たちを通してくれるようだ。
クラウディオ王子が下馬して挨拶をする。
「兄様、お疲れ様でした。首尾は如何ですか?」
「かなり稼いでおいたぞ」
「魔物は?」
「出なかった。鹿と狐だけだ。行ってこい!」
「ありがとうございます!」
なんか美しいな。
兄弟が仲が良いってのは良いもんだな。
「行くぞ!」
クラウディオ王子が馬に跨り掛け声かける。
俺たちは速足で隊列の間を抜けていった。
両サイドから励ましの声が掛かる。
「頑張れよ!」
「ポリオリの力を見せてやれ!」
「なんなら勝っても良いぞ!」
王子は背筋を伸ばし前だけを見て隊列を駆け抜けた。
俺はぺこぺこするのをグッと堪えたよ。
そこからはずっと速歩で進んだ。
速歩というのは馬のちょい走り。足音はパカラッパカラッではなく。カッカッカッカッという感じになる。
後ろを見れば四頭の騎兵。
その後ろには二頭引きの馬車が二台。馬車には魔術兵たちが乗っている。
その後ろには槍を携えた歩兵が走っている筈だ。
ここからは見えないが大変だろうな。
せめて槍だけでも馬車に積めれば少しは楽になるだろうがそれでは急な魔物なんかの出現に間に合わないらしく手に槍を持ったまま走るものなのだそうだ。
三十〜四十分毎に休憩が入るがそれでも走り詰め。
軍隊ってのはやっぱ体力勝負だよな。
俺ももっと走り込んだ方が良いかもしれない。
休憩の度に、馬には水を飲ませリンゴや人参をオヤツに与える。
馬は糞を落とす。
誰も糞は片付けない。
落ち葉は除けるけど糞はそのままってのがなんか腑に落ちないがこれもそういうものなのだろう。
三回の休憩を終えてまた走り出すと何かの死骸が街道脇に落ちていた。
小型犬ほどのサイズ。
毛は短いが全身が茶色い毛皮で覆われている。
妙な黒い膜が血に濡れてくしゃくしゃになっている。
あっ!
前に長官が話していたコウモリか!
こんなデカいの?
俺の知ってるコウモリはネズミ程度のサイズ感だ。
こんなのに血を吸われたらヤバいことになりそうだ。
ダメ絶対!
進むにつれてコウモリの死骸は数を増やしここまでで十数匹を見ただろう。
大発生じゃんね?
と思ったら第二小隊の殿が見えてきた。
馬車を最後尾にして槍兵が周りを取り囲んでいる。
馬は興奮して足を踏み鳴らしている。
俺たちの隊の騎兵が先んじて駆けて行った。
ベネディクト王子に到着を伝えに行ったのだろう。
暫くするとベネディクト王子が徒歩で現れた。
クラウディオ王子が前に出て対応する。
「見ての通り、コウモリの大発生だ。何者かがこの辺りの古い坑道の入り口を破壊して開いておいたようだ」
「バルベリーニの連中の仕業でしょうか?」
「分からん。もしかすると奴らも同じように襲撃に遭っているのかもしれん。ひとまずサビーノ隊の為に少しでも減らせるかと我々も踏みとどまっている」
「サビーノ隊は?」
「少し先だ。早く行ってやれ。ウチからは城に連絡を入れておく」
「分かりました!」
第二小隊が両側に避け道を開けたので駈歩で駆け抜けた。
先程のような激励や挨拶を交わす余裕はない。
暫く走ると第三小隊が見えてきたやはり全員馬から降りて騎兵と歩兵で馬を取り囲んでいる。
「サビーノ!」
「おお、クラウディオ王子。この有様です。よろしければ馬を置いて行ってください。コウモリは集中的に馬をねらうようです。我々がお守り致します」
「そうか。では頼む」
見ると五〜六匹のコウモリがヒラヒラと群がるように飛び、馬の尻あたりに取りつこうとしているようだ。
馬を守っている兵士も興奮した馬に蹴られないように注意しなければいけないのでコウモリに集中できないでいる。
コウモリの飛び方は蝶のようにフラフラとして軌道が読めないのでなかなか落とすことができないようだ。
「総員下馬、先へ進むぞ!」
「おう!」
我々の馬にもコウモリが寄ってきて馬が暴れ出した。
これでは馬車から馬を外すことすら難しそうだ。
馬のせいで混乱が広まっているように思える。
俺は王子に進言した。
「王子、馬は逃げるに任せてよいのでは?」
「バカな、、、。いや、アリだな。この道では迷いようもない」
王子は走り出したところを引き返してサビーノ氏に言った。
「サビーノ! 馬は馬のしたいように逃げさせてよい! 馬車も捨ておけ! 馬車から馬を外してやることを優先せよ!」
「しかし! 、、、なるほど! お前ら聞いたな! 馬を自由に逃がせ! 王子、慧眼です」
「うむ、それでは頼むぞ」
俺たちは魔術兵たちが働いている先へ急いだ。




