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 そうこうしていると落ち葉はらいの日になった。

 前日には別の道路を使って予行演習まで行われた。


 大規模風魔術が得意な者十数名が隊列を組み、先頭が魔術を発動し、拓けた街道を残った者たちが走り、次の者がすかさず詠唱を始め落ち葉をはらい、また走るという流れだ。


 大規模風魔術が得意な兵、路上に残った落ち葉を集める小規模風魔術が得意な兵、落ち葉を焼く火魔術が得意な兵、山火事に警戒する騎馬兵、延焼があった場合に消火する水魔術が得意な兵、魔物や野生生物に警戒する護衛兵といった感じで六十名ほどで編成され、それを率いる小・中尉クラスの指揮官が付く。


 その小隊が4つ編成された。

 俺はクラウディオ王子が率いる第四小隊だ。

 細かな作戦は小隊ごとに違うらしい。


 ウチの小隊はバルベリーニ領に最も近い終盤を務めるとの事で大規模風魔術が得意な者が多く配属されており二名か三名が同時に先頭に立ち、とにかく落ち葉を前へ前へ押し出して行く作戦となった。


 道の脇に払いのけるだけだと雨や風でまた街道が埋もれる可能性があるので押し出すのが正当な落ち葉はらいらしい。


 ポリオリに近い序盤のブロックは相手国が通るまでに掃除をする時間が取れるのでとにかく落ち葉を脇によけ、隊列が走れる石畳を掘り出すことに注力する作戦だ。


 先陣を切る第一小隊はアルベルト王子、第二小隊はベネディクト王子、第三小隊は騎兵団長のサビーノ団長が務める。



 ところで、突然だけどここでお詫びと訂正だ。

 俺は馬に乗って戦う部隊を騎士団だと思ってそう言っていたのだが、正しくは騎兵団と呼ぶようだ。

 騎馬兵団でも良いらしい。

 

 騎士団というのは教会が編成したもので基本は元貴族の聖職者が担うものだそうだ。

 要は教会が貴族から集めたボランティアの傭兵団のような物である。

 主な仕事は聖水を運ぶキャラバンの護衛や教会の守護だ。


 各領地や国の軍に属するのは騎兵団。

 教会に属するのが騎士団だ。


 この辺のニュアンスは難しい。

 もっとファンタジーの原典小説とかヨーロッパ史とかに触れていれば理解しやすかったのかも知れないが、俺は普通にゲームやアニメを消費していただけのライトなオタク層だから難しいことは分からんのだ。



 さて、落ち葉はらいのスタート地点はポリオリの街の正門の前からだ。

 スタートは日の出と同時に。

 謁見の間の前のテラスにスタンバったアダルベルト・バルゲリス領主その人が朝日を真正面から浴びた瞬間にサッと手を上げる。

 ファンファーレが鳴り響き、それを聞いた門兵が門を開く。

 騎乗したアルベルト王子が先陣を切って街道へと駆け出していった。

 隊列は畑を突っ切り朝日の方へと駆けていく。

 街中から歓声が上がった。


 あっちに街道があるのか。

 俺たちは街の外郭の城壁の上からその様子を見守った。

 俺たちの出番はまだだが城壁から降りて準備を始める。

 この数日、雨が降らなかったから今年は進みが速いらしい。


 ところで、一番年下のクラウディオ王子がなんで殿なのかとおかしく思った者も居ただろう。

 俺もそのひとりだ。


 それは経験が多く熟練の兵を擁し不測の事態にも臨機応変に対応できる部隊がなるべく距離を稼ぐ作戦だとの事だった。


 俺を含めた隊の者たちは甲冑は装備せず、隊長を務める王子とその馬はフルアーマーだ。

 俺は今回用に新しい服を当てがわれた。

 司祭服の様なフードの付いた長いワンピースのような感じの茶色いアウターだ。


 渡された時は魔法使いっぽいローブだと思い少々テンションが上がったのだが腰を紐で縛るので司祭や坊さんといった感じになる。

 しかし馬に跨れるように下半身の前後には大きくスリットが入っている。

 下には長ズボンと長袖シャツを着用する。

 足元は乗馬ブーツだ。


 なかなかカッコいい気がする。

 鏡がないので自分では見れないが、かなり気に入った。

 ちなみにローブは新品だがそのほかは全部王子のお古だ。

 なのでモノは凄く良いはずだ。

 なんか嬉しい。


 この格好は俺だけだ。

 魔法兵はいわゆるローブだし、騎兵は詰襟の軍服だ。

 槍を持った歩兵は皮の防具を身につけている。

 俺の格好はどういった服装なのだろうか。


 馬で移動しつつ王子に聞いてみた。


「ねえ王子。僕と同じ服装の人を見かけませんが、これってどういう人が着る服なんですか?」

「ああ、それは貴族ではないが馬に乗れる平民の格好だな。大抵は戦場に予備の馬を運ぶ馬子に与えられる」


 馬子か、最低ランクの服だったわ。

 そういえば俺の格好を見た馬子の皆さんがやけに羨ましそうだったのはそういうことか。

 ごめんよみんな、抜け駆けして。


「お主は貴族の家系ではないし、アカデミーを出てもいない。それくらいしか与えられる服がないのだ。済まんな」

「いえいえ、格好良いのでめっちゃ気に入ってます」

「残念そうな顔をしていたではないか」

「いや、頭では分かってるんですけどお前は最低ランクだと改めて言われた感じがしただけです」

「やはり気にしているではないか」

「というか、この格好で魔術を使って変な目で見られませんか?」

「見られる。大いに変だ」

「よろしいので?」

「逆に、我が領地には貴族でも兵でもないのにこんな才能がある人材がいるのだぞ、というアピールになる」

「ははあ」

「それで誰かと問われたら姉君から預かっていると答えれば、故郷と縁遠いと思われている姉君が我々を頼りにしていると勘違いしてくれる」


 なるほど。

 東方統括部のお偉いさんがちゃんと故郷を気にかけてるんだぞと他領への牽制になるのか。


 なんだかんだこの世界は乱世なんだな。

 てか政治ってそういうもんか。


 政治の駒に使われるのはなんか怖いけどせめてポリオリの皆さんに恥をかかさぬよう努めなければ。


 俺は何気に緊張し始めた。


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