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 翌日の午後、俺はドワーフの工房へ足を向けた。


 こないだ俺を通報したあの工房だ。

 驚かせてしまったのだから一応謝っておこう。そしてなんならガラスボトルを安く譲ってもらおう。

 そういう魂胆だ。

 ガラスボトルが必要かと問われれば必要はない。

 でもほら、銛と網で漁をしてきたモノとしてなんか興味があるじゃないか。


 王子は騎士団の稽古に行っている。

 本来なら地理の授業の準備をしなければいけないのだけど、思えば昨日まで休みらしい休みなぞもらったことがないのだからたまには自由時間を作ったって良いだろう。

 なんなら町を見て回って財布や良さげな鞄なんかもあれば購入を考えたい。


 買い物ってさ、よく考えると別に楽しくない筈のになんか楽しいのは何でなんだろうね?


 俺はウキウキとしながらも少々緊張しながらドワーフの工房を覗き込んだ。


 できればガラスを作っているところを見たかったが、炉の火はもう落としたようだった。

 まあもう夕方近いのだからそんなもんか。


「あの、ごめんください、、、、」


 人は見えないが奥から何やら話し声が聞こえたので遠慮がちに声を掛ける。

 すると奥の部屋からこないだのドワーフが顔を出した。


「あっ、あんたは、、、!」

「すみませんお邪魔でしょうか?」


 ドワーフはその場で片膝をついて首を垂れた。


「先日は大変失礼しやした!」

「いえいえいえ、こちらこそ確かに不審なのですから自分がどう見えるかもっとちゃんと考えるべきでした」

「いやいや、先生様を盗人と間違うなんてあってはならないことです。カカァにもあんな身なりの良い盗人がいるもんかと叱られまして、、、。今日はワシを処分にいらしたので?」

「いえいえ、処分だなんてそんな。生まれてこの方ガラス工房なんて見たことがなかったんで少し見学させて頂ければと来てみたんですが、今日はもうお終いですよね?」


 ドワーフは膝をついたまま振り向いて奥に向かって怒鳴った。


「おい、イェネクト! 釜に火ぃ入れろ!」

「へい!」

「あー、いいですいいです! お仕事なさってる時にまた来ますから!」

「よろしいので?」


 奥からこないだ半鐘を鳴らしたドワーフも顔を出した。

 怯えた顔をしている。

 突然の訪問で怖がらせてしまったか。


「ええ、また今度見させてください。今日は先日驚かせてしまったお詫びに来たのです」


 俺は手に持っていた布の包みからガラスのボトルを出した。

 厨房で分けてもらったワインである。


 執事氏にドワーフを驚かせたお詫びに何か贈り物をしたいのだけど、と相談したら即決で酒だった。

 ドワーフには一番安いやつで結構です、と樽に入ってる赤ワインを空き瓶に詰めてくれたものだ。


 執事氏か厨房にと酒代を払おうとしたら丁寧に断られた。

 客人に金子を払わせることなどあり得ません、ときっぱり言われた。

 ついでに明日、王子の授業のあとに執事室に来るように言われた。

 前に言ってた俺の城での立ち振る舞いについての話だろう。

 なんか緊張する。



 ドワーフはというと俺の出したワイン見て一瞬固まった。

 ゴクリと喉を鳴らしてからまた頭を下げて遠慮の言葉を絞り出した。


「そんな、城にお住まいの方からお詫びの品を頂くなぞ、滅相もございません、、、、、、なあ?」


 突然振られたイェネクト氏は目を丸くしてコクコクと首を縦に振った。

 しかしイェネクト氏も喉を鳴らす。

 目はワインに釘付けである。


 よっぽど飲みたいのだろう。

 どう説得したものか悩んでいると奥から奥さんらしきドワーフが小走りで出てきた。


「全くもう、アンタそういうトコだよ? こういうものは頂かないと逆に失礼になっちまうじゃないか!」

「お前、客前に顔を出すなど、、、」


 奥さんは親方の肩をペシと叩くと横に並んで片膝をついた。


「ウチの旦那が世間知らずで申し訳ありません。ありがたく頂戴いたします」


 そういえばドワーフは女系なのだったな。

 この工房も一番偉いのは奥さんかもな。


 そしてドワーフの女子というと髭が生えてるとか男と同じくらいゴツいというようなイメージがあったが男と比べると華奢だったし髭も生えてなかった。

 背は低いが出る所は出ているのでコンパクトグラマーというヤツかも知れない。

 若かったら、という但し書きは付くがアリかナシかで言えば全然アリである。

 むしろ前世の日本では需要は高いかも知れない。

 みんなムッチリは好きだからな。


「受け取って頂いて良かったです。どうぞ」


 俺は奥さんにワインを手渡した。

 ようやく二人は立ち上がった。


「ありがとうございます! ほらイェネクト、グラス出して。土のコップじゃなくてガラスの奴だよ? 足つきの」

「売り物なのに良いんですか?」

「明日また作りゃ良いんだよ! ねえ?」


 親方は深く頷いた。


「そうさ、ワインは色が見えなきゃいけねえ。最高級の透明なヤツにしろ」


 イェネクト氏は奥に駆け込んだ。


 良かった。喜んでくれたようだ。

 すぐさま飲む所が俺のイメージするドワーフらしくてなんか安心する。


「では僕は、、、」


 帰ろうとすると腕をガシと掴まれた。


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