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 魚を焼くのも魔術でやるのかと思ったが、王子は鞄から紙の包みを出した。塩らしい。魚の両面に振りかけると立ち上がった。


「塩が染みるのに少々時間がかかる。薪木を拾いにゆくぞ」


 なるほど焚き火か。

 これが戦場なら魔力も温存しなきゃならないもんな。

 火の扱いには慣れておいた方がいい。


 馬を連れて行きまた手綱を枝に掛けて俺たちは森に踏み込んだ。

 探すまでもなくそこいら中に枝が落ちていた。

 細いの太いのどしどし拾っていく。

 すぐに魚を焼くのに充分な薪が拾えた。


 ここは良立地だな。


 王子は河原の砂利の上に薪を積み上げると、その周囲を直径50cm程のサークル状に石をどけて砂地を出した。


「火を点けておいてくれ」


 王子は魚に枝を打ち、砂利に並べていく。

 なるほど。

 砂利をどけたのは枝が刺さりやすいようにか。

 手慣れてるな。


 俺はキャンドルを焚きつけの細い枝に落とし、火が点くまで魔力を流し続ける。

 じわじわと火は広がりしっかりと火がついた。


 王子は煙に顔を顰めながら魚を火の周りに突き立てた。


「やれやれ、あとは待つだけだ」


 伸びをすると裸足のままの王子は川にサブサブと入り手を洗った。


 俺はというと喉が渇いた。

 この川の水は飲めるのかしら?


「王子、この川の水は飲めますか?」

「ああ、すまぬ。コップがまだだったな。来い」


 手を振って水を落としながら王子はそう言い、俺たちはまた森へ入った。

 大きな葉を付けた下生えから二枚葉をむしると一枚俺に手渡した。


「折り方を教えてやる。こうだ」


 言われた通りに折って畳んで開くとなるほどコップになった。

 しかも底が平らだから置くこともできる。

 緑が豊富な所は色んな知恵があるなあ。


 感心していたら王子は空に向かってウォーターボールを打ちあげ、コップで受けた。

 リロ氏と同じで飲み水を出すのはできないんだな。


 俺は静かに自分のコップに水を満たし、王子のコップには氷を浮かべてやった。

 王子は目を輝かせていたよ。


 魚は時々裏返したり距離を調整したりしながら焼いていく。

 意外にも時間がかかる。

 思えば俺は焚き火の直火で何かを調理するのは初めてだ。

 もちろん前世と今世を合わせて。


 炉端焼きのお店で魚を焼いてもらった事ならあるが、あれは炭だし室内で風も吹かないので遥かにイージーそうに思える。

 キャンプにハマった友人に誘われて焚き火で調理した時もフレーム付きの焚き火台にスキレットを乗せてソーセージを焼いて買ってきたパンに挟んで食べただけだ。


 しかし焚き火の炎で料理なんてするもんじゃないな。

 だってもう既に二十分は焼き上がりを待ってる気がする。

 俺の腹はさっきから鳴りっぱなしなのだ。


「よし、もう良さそうだ」


 渡してくれた魚に息を吹きかけながら慎重に口に運ぶ。

 少し焦げた皮の中から真っ白い肉が顔を出した。

 美味い。

 川魚は余り食べてこなかったので比較は出来ないが、とにかく身が柔らかい。

 棒から身が落ちそうだったので直接魚を持って食べ進める。

 背びれはもうカリカリになっていたので除かずそのまま食べる。

 骨から身を削ぎ取るように食べても細かな骨が口に入るがさほど気にならない。

 試しに中骨も噛んでみたが頑張れば食べれそうな感じ。

 王子は避けて食べてるから俺もそうさせてもらう。


「こりゃあ、美味いですね」


 王子が満足そうに頷く。


「そうだろう。城ではこれは食えないからな」

「どうして城では出ないんです?」

「人数分を確保するのも、それら全てを調理するのも大変過ぎるからだそうだ」

「そっか」

「民は夏によく食うらしいぞ。町の中の水路でも獲れるのだそうだ」

「へえ、釣りですか?」

「いや、仕掛けだそうだ。売り物にならないガラスのボトルに干し肉を入れて沈めておくと翌日には何匹かエビと魚が入っているのだそうだ」


 なるほど。

 ガラスの街ならではの猟法だな。


「ボトルは工房でもらえるんですか?」

「いやいや、金を出して買うんだよ。溶かせば作り直せる」

「そりゃそうか。幾らくらいです?」

「うーむ、知らんな。欲しいのか?」

「買うかどうかは分かりませんが興味はあります」

「ふむ。お、これももう良いな。食え」

「ありがとうございます」


 そのあとも俺たちはつらつらとおしゃべりを楽しみながら魚を食った。

 満腹には少し足りないが満足のいく食事だった。


 こんな休日はとても良いな。


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