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その日は休日とやらで王子の勉強や稽古が全てお休みとのことで王子に馬の遠乗りに誘われた。
この世界でも七曜はあり、日曜日はお休みという概念はある。
実際、平民は休むようだ。
ポリオリの街でも店の類は日曜はやっていない。
ただ、王子のような王族や軍は言わば、警察であり、消防でもあるので基本的に休みはない。
特例として一月一日とか六月六日みたいなゾロ目の日は休みという事になっている。
あとは王(領主)の誕生日と王妃の誕生日も休日扱いである。
祝賀会が開かれるので城の人間にとっては休みではないが。
平民でも農繁期の農家は日曜でも働くみたいだ。
その辺は前世と一緒だな。
でも宗教で休まねばならないと定められた欧米とは違うかもしれない。
なんだっけ?
編み物以外の家事も禁止されていて食事の準備を前日のうちに行わなければいけないとか?
そんな敬虔なキリスト教徒が出てくる海外の小説を読んだことがある気がする。
何故、編み物は仕事ではないか。
それは編み物は仕事ではなくて趣味だからだ。
やることが無くて手持ち無沙汰なお母さんは編み物をして過ごすのだそうな。
確か、男たちは読書だったかな。
この世界はそこまで堅苦しくなくてよろしい。
イリス教会ではどうなのだろう?
そもそも七曜が転生者の持ち込んだものなのではないか?
エルフたちは休日はどうしていたのだろう?
俺は知らないことが多い。
それはそうと、俺たちは馬の遠乗りに出かけた。
通常なら誰かしら護衛に付くらしいが、今回は俺が護衛ということらしい。
俺は茶色白ブチの比較的仲の良い馬を選び、王子はお気に入りの黒い子を選んでいた。
準備は馬子さんにしてもらった。
家畜の世話をやってる人たちも休めない職種だよな。
手綱や鞍の付け方もそのうち習いたい。
出来ることが多いということは誰かの世話にならなくて良いということで、つまり自由が増えることなのだ。
いつかそのうちこの城を逃げ出さなくてはならない事態になった時に鞍が付けられなくては逃げられない。
ちなみに遠乗りといっても何処に行くのか俺は全く知らない。
持ち物を聞いても何も要らぬと返事が返ってきた。
一応、ウエストポーチは腰に付けて財布は持った。
本当ならナイフや薬一式も持ちたいがリロ氏に預けたままだ。城の高官たちの多くは腰に剣を下げているけど俺は帯刀は許されていない。
王子も邪魔なのか、普段なら帯刀しているが今日は無手だ。
剣を持ち歩くのは護身の為というより儀礼的な意味が強いのかも知れない。
王子は攻撃魔術が得意だから何かに襲われても相手がガチの軍隊でもなければ対処できるだろう。
不意打ちには弱いのは剣でも魔術でも一緒だ。
馬に跨がり城の門を抜け石橋を渡り城下町へ下っていった。
王子に気付いた町の人々は遠ければ手を振り、近くの者は片膝を付き頭を下げる。
手を振る人々が笑顔であることから王子は領民から好かれていることが知れた。
いいな、人気者。
町の通りを曲がり、ジグザグと降りて行く。
王子が言うには馬の通れる坂道が限られていて、それを知らないと階段で阻まれてしまうようになっているらしい。
なるほど、敵が真っ直ぐに城に来れないように作ってあるのか。
もちろん迎撃ポイントなんかも作ってあるのだろう。
面白い。
ブラタモ◯で解説して欲しい。
そして初めて知ったが、町の出口にはしっかりとした壁と門が設えてあった。
そうだよな、欧風の街といったら城壁で囲まれてるものだよな。
ということは正確にはあそこまでがポリオリ城ということか。
ポリオリは崖で挟まれてるから前後だけ閉じれば防御が完成するからエコだな。
この城を設計したのはドワーフなのだろうが、なんとなくドワーフって防御が緩いイメージがあったけどやっぱちゃんとしてんだな。
てか、かなり厳しい乱世だったってことかもな。
机上で学ぶだけではその辺の空気感までは知ることができない。
建築物や街の作りを見ないと歴史の勉強は完成しないのだ。
社会科見学って大切だったんだな。
そんなことを思いながら門をくぐる。
裏口の木の門とは違いカッコいい格子状の金属の門だ。
やはり跳ね上げ式で門の末端は仰々しく尖っている。
その先端は石畳に掘られた穴にしっかりと食い込み外側からではちょっとやそっとでは開けられないようになっている。
それこそ破城槌を持ってこないと。
しかも門は格子状なのだから破城槌を使う相手を攻撃し放題である。
弓で撃ち、油を流し火を放てばひとたまりもないだろう。
門をくぐった先が下り坂になっていることも、これは意図的に作られた意匠の結果だろう。
ヤバいな、ポリオリ城。
俺がタ◯さんの案内人になりたいくらいだ。
門を抜ければ農地が広がっていた。
山間ではあるが棚状にしなくてはいけない程ではない。
左手奥には川が流れているのが見える。
俺が渡るのに苦労した川が城を迂回してあそこに続いているのだろう。
畑に水を引けるしマジで最高の立地だな。
「ゆくぞ、こっちだ」
王子の先導で右手へ折れ、緩い傾斜を上がっていく。
そして気づく。
城の周辺ではあまり実感が湧かなかったのだがもう春なのだな。
道端には小さな花が咲き、山全体が淡い緑に覆われている。
そうか。前に聞いたがこの辺りは落葉樹が多いから道が埋まってしまって冬の行き来が難しいのだったな。
新緑の季節に馬の遠乗りとは王子も風流なものだ。
風はまだ少し冷たいが馬の体温で脚は暖かい。
俺たちは並んでポクポクと山を登って行った。




