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 次の日、王子の授業でいつもの公文式風の計算問題を八十問ほど解いてもらい、その後は手紙の時間にした。


「テレジオさんに聞いたら、王族同士の手紙のやり取りでも追記を使っても良いらしいとの事なので別紙で追記を書き足しましょう」

「何を書くんだっけ?」

「お前に興味が湧いたから色々書いて教えろって書いてください」

「本気か?」

「いえ、もっと柔らかい文面で優しくロマンティックにお願いしてください」

「ふーむ、、、」


 王子が紙に向かったので俺は本を開いた。

 地理の本である。

 これから近代史と地理の両方をやらなければならないので、どうせなら一緒にやってしまおうと画策している。

 文書館にあるデカい地図で位置を見ながら周辺国も把握しながらやれば、まとめてまるっと覚えられるのではないか。

 近代史と地理を別にやるより楽だし。

 できればその土地の出身地の人が現地の話なんかも補足してくれると良いんだけどな。

 まあ、贅沢が過ぎるだろう。


 このやり方の問題は大きな流れとしての近代史を把握し難いことだが、そのうち年表でも作ればきっと大丈夫だ。


 そんな訳でポリオリの周辺国から下調べをしているのだ。

 アーメリアに統一する前の政治体制、人口、経済、気候、特産物、そしてどことどのように衝突し、また同盟を組んだか。ついでに王族や有力貴族の婚姻関係もやればミカエルの言っていた王族が持つべき教養の全てが網羅できるのではないか。

 少々欲張り過ぎかもしれないが、それらをひとつひとつ別に授業していては何年も掛かってしまう。

 俺はいつ長官に呼び出されるか分からない身なのだ。

 できるだけ急いで終わらせてしまいたい。


 俺は目当ての土地の項目を見つけて栞を挟むと今度は近代史の本を開き、その都市に関連する記述を片っ端から探していく。

 見つけたらこれまた片っ端から栞を挟み込む。

 今は内容は見ない。

 後から精査して年代順に栞に番号を振るつもりだ。

 この近代史の本は章ごとにタイトルが付いているから比較的探しやすい。

 目次を付けてくれればもっと捗るのだがな。


 最初、この本の章立ての順番の意図が全く見えなくて作者が思いついた順に書いたのかと思ったのだが、アーメリア王都のマシュトマの王家の血筋を追っているのだと最近分かってきた。

 お貴族様は血筋がホント好きだよな。


「おいオミ書けたぞ、こうだ。『追記。ふと、其方の事をあまりにも知らない事に思い至った。いつも自分の事を書いてばかりだったので口を挟みにくかっただろうか? 申し訳ない。其方の事をもっと知りたい。好きな花、好きな季節、どんな日々を過ごしているのか、思うままに書き記して欲しい。其方とは一生を共にするのだ。知らぬと困る事も出てくるだろう。頼む。』、、、どうだ?」

「最高ですね! 優しくて甘いのにぶっきらぼうとか、王子は天才ですね」

「そうか?」

「ええ、完璧ですよ。何でミカエルさんは王子の手紙をボロクソに言ってたんですかね?」

「まあ、散々書き直させられたからな。ここまで書けるようになったのは奴のおかげだよ」


 そういえばそうか。

 やっぱ優秀な先生なんだな。

 嫌味な性格は気に入らないけど。


「ではこちらはお預かりさせていただいて、後でテレジオさんに添削していただきますね」

「うむ、頼む。しかし、できればもう書き直したくはないな」

「ですよね」


 この世界のインクは乾くのにかなり時間が掛かるので手紙はデスクに広げたままにしておく。


 王子の言う通りだ。

 紙も無駄には出来ないし王族同士の手紙なぞ神経がすり減りそうだ。


 昼まではまだ時間がある。

 剣術をやる程の余裕はない。

 どうしたもんか?


 すると王子が大きなため息を吐いて足をデスクの端に乗せた。


「やれやれ、確かにキアラ殿はどんなお方なのだろうな、、、」


 そうか、この世界には写真はないし似顔絵くらいは見たかもしれないけど絵師も美化して書くだろうしな。


「美人だといいですね」

「そうだな」

「ちなみに王子はどんな女性が好みで?」

「そうだな、、、豊かなのが良いな」

「ええと、それは胸元の話で?」

「胸も尻もだ。女ってやたらと痩せたがるだろう?」

「でもウエストは細い方が良くないですか?」

「まあそうだが、ガリガリだと困るな」

「細いと魅力を感じませんか」

「まあ、そうだな」

「それでは後継ぎに問題が出ますね」

「そうなんだ。三男ともなると第二夫人だの妾腹だのという訳にもいかんしな」

「それになんか揉めそうですもんね」

「ところでオミはどんな女が好みなのだ?」

「僕は色白な子が好きですね」

「女なぞ皆が白いではないか」

「いやいや。漁村なんかだとみんな真っ黒に日焼けしてましてね」

「ほう」

「僕の婚約者もボサボサの真っ黒だったんですが、、、」

「え! お主、婚約しているのか?」

「ええ。真っ黒だと思ってたのが白いお腹がチラッと見えたことがありまして、それでコロッと」

「こんなところで油を売っていてよいのか?」

「まあ、仕方ないです。なんならあっちも、もう違う奴とデキてるかも知れません」

「ええ、、、? 庶民の婚約は簡単に破棄できるものなのか?」

「子供同士の口約束ですしね」

「、、、、、」

「多分、大丈夫かと、、、」


 なんだか不安になって来た。

 やっぱヤバイのかも。

 とはいえどうにもならないが。


 いや、長官やキコなんかのリアクションを見た感じ、庶民の婚約はそれほど重みがある訳ではなさそうだった。

 大丈夫、大丈夫、、、。


 ああ、村の様子が見たい。

 ロンド氏あたりに探ってもらうよう頼んでおけば良かった。

 ギルドの誰かが把握してるだろうからな。


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― 新着の感想 ―
絶対こいつやべーって思われた瞬間ww
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