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「王子、キアラ王女の誕生日はいつです?」
「ちょっと待て、いつだか王女の略歴をもらったんだが、、、」
「それはキアラ王女から?」
「いや、父の相談役が用意したものだな」
「では王女の好きな季節は?」
「知らぬ」
「好きな花は?」
「さあ?」
「知っているハズですよ?」
「花? いや、知らんな」
俺は四通目の手紙を王子に見せた。
『こちらはもうすっかり冬です。城から見渡せる景色全てが白く塗りつぶされています。殿下がこれをお書きになったであろう頃には目に鮮やかなサフランの紫色がそこここに輝いていたのに、、、』
「好きな花とは書いてないではないか」
「秋の花は意外と種類がありますし、普通のセンスなら『小麦が頭を垂れ』とするところをサフランを選んだのですからお好きなのでしょう。もしくは『シュトレニアといえばサフラン』みたいな特産物ですか?」
「いや、どうだろうか?」
「調べましょう」
俺たちは地理の本を開いてシュトレニアの章を探した。
やはり本には目次とページ数が必要だな。
やっとの思いでシュトレニアを発見。
やはり鉄鉱石が特産物で主要輸出品は鉄。
農作物でこれといった品は無いようだ。
まあ、この本をどれだけ信じて良いか分からないが。
ところでサフランはこの世界でも価値のある香辛料だろうか?
前世ではサフランは金と倍額で取り引きされると称される香辛料の中で最も高価な香辛料だったが。
「王子、サフランはこの国でも人気のある香辛料ですか?」
「いや、どうだろうか?」
十三歳のガキが香辛料のことなんて知る訳ないか。俺だって自分のコンビニで『サフランライスのインドカレー』が発売されなかったら死ぬまで知らなかっただろう。
てか、あれ別に普通の白飯でいいよな。
サフランのことはそのうち厨房のシェフに訊くことにしよう。
あるいは博学そうなトンマーゾ司書なら知ってるかも。
「王子、その略歴とやらを見せてください」
「なんなんだ、、、あったぞ。これだ。」
略歴は王子のデスクの一番上の引き出しに入っていた。
大事であることは認識していたのだろう。
どれどれ、、、なんだコレ。
ほとんど家系の事しか書いてない。
本人についての記述は『髪は金に近い茶、目は濃い青。やや小柄。容姿端麗で明晰なお人柄』とある。
人柄が明晰ってなんだよ。
多分、可愛くって頭も悪くないってコトが言いたいんだろうけど、他の人のプロフィールもぜんぶ同じこと書いてあるんじゃないの?
特に、王子のプロフィールもおなじこと書いてありそう。
『髪は栗色、目も同じ栗色。容姿端麗。性格はやや粗雑。剣の腕は確かだが勉強はやや苦手。女性よりも馬を好む』
とか書いてあったら面白いんだけどな。
さておき。
ああ、第三夫人の子か。
いちおう、どっかの適当な妾腹に産ませた訳ではない由緒正しい王女ではあると。
母親である第三夫人も、子爵家の本妻の子であるから代々続く良い家の良い血筋であると。
こんなんどうだっていいじゃんね?
いや、そこしか判断基準はないのか。
政治的な価値。
すなわち人質としての重みが価値のすべてか。
いやあ、王家とかに転生しなくて良かったわ。
『転生したら伯爵家の第二子でした!』
とかだったら生きるのが死ぬほど面倒くさそう。
政略結婚だの跡目争いだの、なんの自由も許され無さそう。
俺だったら引きこもって趣味に走るね。
まあ、そういうのもあって王子は馬に耽溺してるのだろう。
権力だの知らねえ女だのよりは馬の方が可愛いよな。
もっと王子に優しくしてやろう。
「オミ、どうだ。お前の知りたい情報はあったか?」
「うーん、誕生日くらいですかねー」
「ふむ、お前は何が知りたかったのだ?」
「王子の手紙には相手への興味が感じられなくてですね、、、」
「ほう」
「キアラ様の最初の手紙には明確に『貴方の事をもっと知りたい』と書いてあったですよね。そう言われて嫌な気持ちになることはまず無いと思うんですよ。むしろ好感度が高い」
「ふむ、そうだな。我もあの手紙で中々良い娘だと思ったものだ」
「でしょう? なので今後の手紙ではもっとキアラ王女への質問を多くする必要があるかと」
「ふむ、ではあの手紙は書き直しだな」
「いえ、あれはあれで良い出来ですので質問だけ追加すれば良いでしょう」
「追加?」
「王家の手紙のやり取りで『P.S.』って使います?」
「なんだそれは?」
「追記という言い回しの略なんですけど」
「知らんな」
「じゃあ、ちょっと使って失礼がないかどうかルカさん辺りに聞いておきますね」
「頼む」
てか、テレジオ氏に聞ければ一番確かなんだけどな。
こういうの聞いて失礼に当たらないかしら?




