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 王子の婚約者の名前はキアラ。

 王都に隣接するシュトレニア国のオルシーニ家第四王女である。

 シュトレニアはアーメリア国ランキングでいうと中位あたりに位置する小国で内陸の山岳国家である。

 カイエンに居たドワーフたちが多く移住した先として知られ、鉄の産地として頭角を現した新進気鋭の国である。

 なのに何故ランキングが中位なのかというと稼ぎ頭であるドワーフがアーメリア国の自由民であり徴税できないからである。


 ポリオリと悩みを同じくする国同士が仲良くしようとしているのだ。


 ちなみにドワーフに対する免税は第一次産業のみ、という抜け道があるため時計やガラス製品という加工製品には課税が可能であるためポリオリは比較的豊かなのである。


 もちろんシュトレニアだってドワーフに鉄を加工してもらって武具だの農具だのを輸出しているが、腕の良いドワーフの職人は各国が高額で引き抜いてしまうので自然と鉄鉱石の採掘が主力産業ということになってしまうのだそうな。


 そんな訳でシュトレニアにはポリオリのドワーフの技術力に多いに魅力を感じているという事情がある。

 ポリオリとしてはこちらでは余り取れない鉄が豊富ということでシュトレニアに魅力を感じている。

 なるほど政略結婚とはこういうものか。


 そんなふたりが婚約したのは三年前、クラウディオ王子とキアラ王女がお互い十歳の時である。


 この世界ではサナでも同じだったが十歳までは死にやすいとされ、婚約は十歳になってからというのが通例なのだそうな。


 手紙のやり取りは春と秋の年二回。

 基本は王子から出して王女が返事を書くという立て付けになっている。


 どうせなら王子が出した手紙も全て閲覧したいところだが流石にこれは二枚書きはしてないらしい。

 後に何かの証明になるかもれない文書なのだからカーボンコピーを残しておけよと言いたいが、もちろんこの世界にそんなものはない。

 下手に偽造ができない方が安全なのかもしれない。


 そんな訳でキアラちゃんからの返事の手紙を読む。


『殿下からのお手紙受け取りました。天にも昇る気持ちで心が震えます。幼い頃は身体が弱く姉君にいつも心配されていた私が愛しい方から手紙をいただけるようになるとは思ってもいませんでした。

 手紙をお書きになられた日付を見ると春だったようですがこちらはもう初夏と言っていい気候です。庭には薔薇が咲き誇っています。我が城自慢の薔薇園ですのでいつか貴方様と共に眺めることができればと夢想してしまいます。

 よければ次の手紙では貴方様が普段どのようにお過ごしなのかお記し願えますか。貴方のことをもっと知りたいのです。どんな子供時代を過ごされたのかも興味深いですが、それは実際お会いしてから直にお聞きすることを楽しみにしたいと思います。

 どうかご健勝にお過ごしください。

 次の手紙を心待ちにしております。両国の距離が遠いことを痛ましく思うほどに』



 スゲエな。

 いや、大したもんだ。

 向こうにも家庭教師が付いて添削してるんだろうが、当たり障りがなく、厚かましさも感じさせず、好感度のみが高い。

 そうとうハイレベルな手紙と言える。

 これはかなりの使い手だわ。


 この手紙にあったキアラ王女の希望通りにクラウディオ王子は手紙に日々の暮らしを綴っているらしい。


 王子の今回の手紙の草稿はこうだ。


『愛しのキアラ王女、健やかに過ごされているだろうか。こちらは花が芽吹く季節になりつつある。南部であるとはいえ、冬は寒さが堪える。

 そういえば、いつか書き記した口煩いばかりの教師は担当から外すことができた。これで少しは気が楽になるかと思っていたらすぐさま次の教師があてがわれた。

 これが驚いたことにまだ十一歳の子供で元服時のサナ人のように頭を剃り上げて奇怪な風貌をしている。

 どうなることかと思ったが、これが中々の切れ者で掛け算の答えを全て暗記しているという。

 古エルフの魔術の使い手でもある。なのに剣術も乗馬もできぬという妙な男だ。

 しかし堅苦しさがなく、いつも飄々として掴みどころがない。

 アーメリア軍にいる姉君の伝とあって今は弟分として剣や馬を教えている。どちらが教師か分からぬ程だ。

 こちらも其方の手紙を待ち遠しく思っている。

 返事が来るのは夏だろうか。

 夏が待ちきれない』



 おやおや、王子の手紙も中々ではないか!

 いや、みくびってたわ。

 ほぼ完璧と言って良い。


 俺の風貌を奇怪と記したのには少し引っ掛かりを感じるがそれは仕方がない。

 髪だってもうかなり伸びてきたしな。


 ミカエル氏がボロクソに言ってたからド酷い文面を覚悟していたのだがこれなら添削すら必要ないだろう。

 王子の人柄がよく分かる温かで簡潔な文面だ。

 字も読みやすいし。


 でもまあ、アレか。

 トンマーゾの熱い熱い恋文と比べれば情熱が足らないか。

 もしくはミカエル氏みたいなお堅い人にはカジュアル過ぎと思われてしまうかも。


 敢えて重箱の隅をつつくならば、相手への興味が薄いところくらいかな?

 キアラ王女に関して触れている箇所が時節の挨拶と締めの部分だけだもの。

 これだと社交辞令と思われる可能性があるかも。


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― 新着の感想 ―
使い手で草w 見事な手紙達やなぁ 小説構成の為に設けてある足りないところが自然なのもポイント高い
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