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 そうか、王子は今日も騎士団とフルアーマーでの騎士武術の稽古だったな。

 半鐘が聞こえたか、飛び出していく衛兵を見て加勢しに来たのだろう。


 騎士道精神て奴だ。


「おい半鐘が聞こえたが、、、オミではないか」


 未だに手を挙げている俺を見て王子は目を丸くした。


 状況を説明しようと口を開きかけたが、バカ隊長が答えた。


「こ奴が不審な動きをしていたとの事でガラス工房の者が半鐘を鳴らしたそうです!」

「不審? 不審とは何だ」

「背嚢を背負ったまま粉挽き小屋を嗅ぎ回っていたと!」

「そうなのか、オミ?」


 やっと説明ができる。


「はい。風車をよく見てみたくて見学しておりました」

「ただ見学するなら背嚢なぞ不要であろうが! それに既に中身はパンパンではないか! 改めさせてもらうぞ!」


 いちいち叫ぶし突っかかってくるし、隊長さんうるさいよ。

 俺はリュックを下ろしてルドヴィコ氏に手渡した。

 ルドヴィコがリュックを開けると毛布を取り出した。中身はそれだけである。


「何だコレは?!」

「毛布です」

「そんなことは見れば分かるわ! 何故に毛布なぞ持ち歩いているのか、何に使うのかそれを訊いておるのだ!」

「毛布は寝るのに使いますね」

「貴様、、、、! 王子、やはりコイツは何か隠してます。私に預けて頂けましたら必ずや企みを吐かせてみせましょう!」


 マジでこいつウザイわ。

 何でこんなに無能なのに隊長とかやってんだろ。


「もうよい、憲兵隊長殿。後はこちらで対処する」

「では我々が縛り上げて取り調べ室まで連行致しましょう。取り調べの方は王子にお任せ致します」

「縛り上げる必要はない」

「王子、ですがこ奴は怪しげな魔術を使うと聞いています。縛り上げて猿轡を噛ませないと何を詠唱するか分かりません。危険であります!」

「もうよいと言っている!」


 王子が声を荒げた。

 隊長は何か言いたげではあったが馬に乗ったまま後ろに数歩下がった。


「オミ、何故に背嚢を背負っていた」

「先ほどミカエル様に教師の資質なしと判断され出て行くよう通達されまして、旅の食糧を入手しようと持ち出しました」

「それ見た事か! やはり小麦泥棒ではないか!」


 隊長がまたしゃしゃり出てきた。

 王子は黙ってそれを睨みつけ黙らせる。


「オミ、このまま去るつもりだったのか?」

「いえ、ルカ様に預けてある荷物もありますし、ちゃんと皆さんにお別れしてから出立するつもりでした」

「お前はミカエルが己の進退を決定する権限があると考えたのか?」

「違うのですか? 早く出て行けと凄い剣幕でしたから」


 王子は俺から目を逸らし、冷たく目を細めた。


「では城へ戻るぞ! 憲兵隊長殿、済まぬがこいつに馬を貸してやってくれ」

「え、、、ですが、、、」

「早くしろ」

「は!」


 隊長殿は渋々馬を降りて近くに居たルドヴィコ氏に手綱を渡した。

 俺は手綱を受け取るとルドヴィコ氏に頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

「鐙の高さはこのままでいいか?」

「大丈夫だと思います」


 馬は茶に白のブチのある子で、この子は比較的初心者にも優しい子である。

 良かった。

 俺は茶ブチの首を手のひらで軽く叩き挨拶をする。


「ちょっと乗らせてもらうぞ?」


 茶ブチは横目で俺を見て鼻を軽く鳴らした。

 多分、いいよって事だろう。

 俺は鞍の前輪に手をかけ、鐙に足を乗せて一気に跨った。

 失敗しなくて良かった。

 ここでジタバタして尻を押してもらっては格好が付かない。


「ゆくぞ!」


 王子の号令で騎士団と一緒に駆け出す。

 音が凄い。

 いつもは土の馬場で乗馬の稽古をしているが、ここは石畳である。

 馬の足音とフルアーマーの鎧が揺れる音で妙に勇ましい。

 戦に出陣するとこんな感じなんだろうなと感心してしまう。


 走ったまま橋を渡り、門をくぐり抜けて魔術場へ向かう。

 俺の馬は門の脇の衛兵の詰め所に置いて来た方が良かったかも知れないが流れでここまで来てしまった。


 王子がヘルメットを外す。


「今日はここまでとしよう。妙な茶番に付き合わせて悪かった。各々休んでくれ!」


 俺たちは馬から降りた。

 馬子さん達が駆け寄って来たので手綱を渡す。

 顔見知りの馬子さんは俺を見て、馬を見て驚いた顔をしていた。

 俺は茶ブチの首をまた叩いてお礼を言う。


「ありがとな」


 茶ブチは俺の胸元に鼻先を擦り付けて返事した。

 親愛の印のようにも思えるが、鼻水を拭いただけかもしれない。

 判断に困る。


 フルアーマーの騎士には若い少年兵が駆け寄って鎧を外し始めた。

 王子にもやはり少年が駆け寄り甲冑の背中のベルトを外し始めた。


 そうか、フルアーマーはこういうのもあるんだ。

 ひょっとしてフルアーマーって自分一人では着れないの?


 王子は自分で籠手を外し、前腕当てを外して少年に渡した。

 ガントレットっていうんだっけ?


「災難だったな」

「え? いや楽しかったですよ? 初めてフルアーマーの皆さんと肩を並べて走りましたが凄い音ですね。テンションが上がります」


 王子はプッと吹き出した。

 

「お前はいつもその調子だな。仕事をクビになりかけてあの隊長に拷問されかけたのだぞ?」

「そういえばそうですね。ところでミカエル様の決定は無視してしまっていいのですか?」

「ミカエルは別に教師達のまとめ役でも責任者でもないのだ」

「そうなのですか? あんな偉そうなのに?」

「あ奴は兄上のために王都からわざわざ招いた教師だから自分が教師の中で一番偉いと勘違いしているだけだ」


 そういう事だったか。

 居るよね。

 そういう無根拠に偉そうな人って。

 バカ隊長殿とか。


「それに奴はちょっと怪しいところがあってな、、、」

「なんです?」

「まあ、確証はないから口にはできんが、今回の事で突けばうまい具合にボロを出してくれるかもしれん」


 何それ?

 国家転覆を企んでるとか?

 それか何処かの国のスパイとか?


 そんな話をしているとルカ氏が魔術場に駆け込んで来た。

 息を切らし、王子の姿を認めるとこちらへ向かって来た。

 そして俺を見て一瞬足を止める。


 あちこちに伝言を頼んでたから探してたかな?

 悪いことをしたかもしれん。


「オミクロン、何処へ行ってたのだ!」

「あ、すいません。ちょっと町の方へ、、、」

「ミカエル殿がお主にクビを言い渡したというものだから慌てて部屋へ行ったら荷物を全て持ち出してもぬけの殻。それに皆がワシを探していたと言うものだからもう出て行ったかと思ったぞ」


 王子がニヤニヤしながら口を開く。


「しかもこ奴、小麦泥棒と間違われてドワーフの職人に半鐘を鳴らされ、憲兵隊長殿に捕まっておったのだ」

「何ですと?」

「我も半鐘を聞きつけたので駆け付けてみれば、オミの奴は両手を挙げて降参しておった」

「お主は本当に、、、」


 ルカ氏は言葉に詰まって項垂れたが、王子がこう続けた。


「話題の尽きない奴よのう?」


 そして腹を押さえて笑い出した。


 なんか、まあ大丈夫そうだな。

 俺は安心した。


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― 新着の感想 ―
はー楽しいw 見事な構成と描写ねぇ 時が経つの忘れるわ〜
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