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 さて、王子の授業の進捗具合だが掛け算九九はとっくにマスターし筆算での足し引きもかなり早くなり、暗算も普通にできるようになった。


 やはりアラビア数字の導入が効果的だったのだと思う。

 むしろローマ数字的なアレで計算できる人の気がしれない。


 歴史の授業もご存知の通りマッテオ氏のおかげで順調である。

 マッテオ氏の講談は感情に訴えかけてくるのでついつい夢中になって聴いてしまう。


 王子も勉強に対する苦手意識がすっかり無くなり授業から逃げようとも寝ようともしなくなった。

 参謀殿の兵術の講義でも鋭い質問を投げかけ参謀氏からも一目置かれるようになった。


 順調そのものである。


 と思った矢先、第二王子の教師のミカエル様の査察が入った。

 どうやらアカデミーの入試に合格できるレベルにあるかどうか定期的にテストされているらしい。

 確かに俺にはそれは出来ない。

 アカデミー受験したことないからね。


 そこでまた俺はミカエル様に呼び出された。


「まったく君は、前史なんて無駄な所にどれだけ時間をかけているのだね? 各国の現在の状況や有力な貴族の名前など一番大切なことが一切頭に入っていないではないか。それにだ、婚約者への手紙の返事も杜撰なものだ。君は独断でトンマーゾ様やマッテオ様を巻き込み、皆の時間を奪っておいて全く成果を出していないのだぞ? 王子には上手く取りいったようだが、教師としての資質不足とあれば私が引導を渡してもよいのだぞ?」


 なんじゃそれ?

 最初は数学さえ教えれば良いみたいな話だったのに何でこうなった?

 実際のところ、王子の学力が伸びて来てるからあれもこれもと言いたくなっているだけじゃないの?


 そもそも、まずは俺の成果を認めろよ。

 バカめ。


「まったく至らなくて申し訳ありません。しかしながら王子もやっと勉強への苦手意識を克服した所ですからこの先はスムーズに進むと思いますので、、、」


 しかし恋文についてはすっかり忘れていたな。

 手紙というのはいわゆる国語力みたいのとちょっとベクトルが違うんだよな。

 マッテオ氏の手紙みたいな熱量が大事なんだよ。

 とはいえ俺は書いたことないけど。


「本来なら今年の入試に挑ませる予定だったが、このままでは合格は難しい。来年までお預けだ。君には責任を感じて欲しいところだな」


 そうだったの?

 そんな予定は知らんがな、アホめ。


「大変申し訳ないのですが、僕はアカデミーの試験について何も知りません。それはいつ行われるのでしょう?」


 ミカエル氏は大袈裟にため息を吐いた。

 ムカつく。


「アカデミーの入試は七月の十五日に行われる。そんなの常識であろう?」

「済みません、知りませんでした。ちなみに場所は?」

「王都以外の何処でやるというんだ?」

「ついでにもうひとつ。ポリオリから王都までは何日くらい掛かりますか?」

「貴様、そんなことすら調べてないのか! 王都までは馬車で約五週間だ! つまり六月の段階で合格間違いなしの状態に持って行く必要がある! あとふた月半だ! もうよい! お前は首だ! やる気のない者を使うだけ無駄だ! 後は私が引き継ぐからお前は荷物をまとめて出て行け!」


 おいおい、随分だな。

 王子の苦手意識が克服されたからって手柄だけ貰おうって魂胆なんじゃねえの?


「左様ですか。ではお別れにひとつ言わせていただきますが、僕は数学だけ教えろと最初に言われました。そのような契約だった筈です。それが途中から歴史もやれと仕事を追加されました。試験のことなど一言も聞いておりません。これは誰の責任でしょう? ルカ様ですか?」

「貴様、またもやひとに責任を擦りつけようなどと!」


 俺もわざとらしくため息を吐いた。


「ルカ様は正式には教師ではなかったと聞いています。となると王子の教師として何をすべきかを僕に通達するのはミカエルさん、貴方の役目だったんじゃありませんか?」

「おのれ、聞いておれば調子に乗りおって!」


 俺は人差し指を立てる。


「ちなみに、僕はここで教師の職を失っても痛くも痒くもありません。カイエンに知り合いもいますしね」

「ふん、それがなんだ。早く出て行け!」


 俺は肩をすくめる。


「こんなやり方で僕を追い出して王子が貴方の授業を喜んで受けるとは到底思いませんけどね。そうなると責任を問われるのは貴方になりますけど、大丈夫そうですか?」

「ぐぬ、、、」

「それに僕は東方統括部長官で在らせられるリサ様から客人として待っていろと申しつけられています。それを追い出すとなるとリサ様のポリオリへの不信が募りますけど、その事について領主様はどのように思われるでしょうね?」

「黙れ! 早く出て行け!」

「仰せのままに。では失礼します」


 俺は優雅に頭を下げるとミカエル氏の執務室を後にした。


 出ていくならルカ氏に頼んで預けてあるナイフ等の荷物を返してもらわなきゃな。

 俺は同じフロアにあるルカ氏の執務室の扉をノックした。

 返事はない。

 このフロアの部屋には鍵があるのでドアノブを回してみたがやはり鍵が掛かっている。


 今は王子が騎士団と騎士武術の稽古をしている筈だ。そっちに立ち会っているのかな?


 俺は魔術教練場を見渡せるテラスに移動した。

 見学者席にルカ氏の姿はなかった。


 文書館の方かしら?

 あの二人は仲良しだからな。


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― 新着の感想 ―
ミカエルうぜぇー 小説的には良い舞台装置で、顛末が楽しみだね どうなるのかな〜
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