表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/253

111

「僕は何も読んでませんし、その事を誰かに喋ったりしませんのでどうかご安心を、、、」

「ほら、変な勘違いをしとるだろう! 違うぞ。アレは結婚前に我が妻に宛てた手紙じゃ!」

「それなら隠す必要もないでしょう。素敵な手紙でしたよ?」


 トンマーゾ氏が笑う。


「そうなのだが、奥方があの手紙を後生大事に持っていると知って照れたマッテオは捨てさせようとしてな」


 後で恥ずかしくなったのか。


「奥方がマッテオから隠して取っておいてくれと文書館に持って来たのだが、流石にそれは断った。すると今度はルカのところに持っていってルカはそれを受け入れたということだ」


 確かにあれだけ文書やら紙やらが沢山あったら探しようがないもんな。木を隠すなら森ってヤツである。


 マッテオ氏は荒々しく席に着き食事を始めた。

 あれ、王子を待たなくていいのかな。

 でもあれか、欧風マナーだといただきますとかも言わないもんな。


「隠しておくなら徹底的に隠せばよいのじゃ。それを他所から来た小僧に読ますなんてどういう了見じゃ」

「あそこに保管してある書物は城の図面がほとんどだ。機密なのだから仕方あるまい」

「ふん。あの野郎、後でとっちめてやるわ」


 ふたりが食べていると王子が入ってきた。


「始めてくれているか。待たせて済まんな」


 王子は上着を脱いでシャツとベストになっていた。

 上着を汚したくないからかしら?


 メニューは全員一緒。

 薄く切られた黒パン3枚とスープ、スクランブルエッグのような卵料理だ。


 俺のいつもの昼飯に卵が付いただけである。

 王子だからって、いつもそんな豪華に食べてる訳じゃないんだな。


「何か盛り上がっていたな。何事だ?」

「王子、そんな事より先ほどの続きですじゃ」

「うむ、頼む」


 マッテオ氏はもう食べ終えていた。

 早弁だな。

 軍人はみんなそうかも。


「通路を右に行った者たちは迎撃された。では左に向かった連中はどうなったか?」


 王子は食べながら頷く。


「そちらは通路の奥深くまで誘い込まれた。右に左に曲がりくねるそこはまさに迷路。分岐こそないがマッピングしていた兵もどう書いて良いか分からなくなるほどだったそうじゃ。そしておとずれる行き止まり。分岐や隠し扉の見落としがなかったか戻ろうとしたそこにあらわられたのが黒狼じゃった!」

「魔獣の?」

「いかにも。何故にドームの中に魔獣がおったのかは分からんがガルダナの斥候兵のとほんどがあっというまに噛み殺されてしまった。左右に別れた斥候がどちらも待ち伏せされた事を知った本部は通路を使う事を諦め、壁を破城槌で破壊することにした!」


 やっぱ脳筋だな。

 しかしそういうの嫌いじゃないぞ。


「壁を突破すると眩い光! そこに現れたのは広大なホール。どのドームの門の中にも設えてあるホールじゃった! そして奴らは見た。ホールに這い回る先ほど自分らが苦しめられた通路が作りつけてあるのを! こんな子供騙しにしてやられたかと憤怒に捲かれるガルダナ兵。もう小癪な罠はあるまいと怒声をあげて突入する!」


 ほうほう。


「正面奥には屋内農地が、左右には居住区が見える。定石で言えば農地にクスカ軍の主力が、そして居住区のテラスからは弓兵が狙っているはずだった。こうなれば城攻めを想定して訓練して来たガルダナの独壇場となる。先に厄介な弓兵を仕留めんと軽装兵が左右に別れ居住区に取り付かんとしたそのときじゃ!」


 バンバン!


「なんとホールの床が消え失せた!」

「ええ!」


 俺は驚いて声を出してしまった。

 見ると王子は微笑んでいる。

 知っていたのか?


「下は真っ暗な闇! ホールに居た全員が真っ逆さまに闇に呑まれていった! そこにはもちろんガルダナ軍の総大将レスキーニャンその人も含まれていた! そこが勝敗の分かれ目、大将を失ったガルダナ軍は撤退を余儀なくされたのじゃ、、、」


 え、どんな仕掛けなの?


「その顛末が各国に伝わり、アーメリア中のドームが思い知らされた! エルフの捨てたドームにはこのような機能が最初から仕込まれていたのだ! 強大な兵器、敵を誘い込む罠、そうしたものが各ドームに準備されている!」


 マジか。

 そんなん大戦争になっちゃうじゃん。


「そこからは皆の知っての通り大混乱じゃ。ドームを捨てるべきだと主張する一派。エルフの僧を拷問してドームの力を手に入れようとする一派。今まで通りに平和理にドームを運用し続けようとする一派、、、」


 マッテオ氏は悲しげに首を振った。


「結末は知っておろう。ほぼ全てのドームは地中に呑まれ、ダンジョンと化した。早くにドームを捨てた者たちだけが生き残り、今の世界となる。例外は王都だけじゃ。王都のみがドームの存続に賭け、強行派を全て処刑した。ドームの操作に関わる施設を岩で埋め、誰も触れ得ぬようにした。今でもドームの機能は生き続けている。王都の王都たる所以じゃ」


 ちょっと待て、長官はダンジョンの機能に関わる魔法陣やらをずっと研究してるって言ってたな。


 ちょっとそれはヤバイことなのでは?


 悪用する気はないのだろうけど秘密を解明しちゃったら、それこそ偉い人に攫われるか殺されるかしちゃうよ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
それだけのものを持ちながら生存のための後任まで用意してあげて迫害されても報復もしないエルフ……やろうと思えば最初から反乱分子殲滅も余裕だったろうになぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ