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ついでと言っては何だが剣術についても触れておきたい。
ポリオリの剣術はいわゆるガンガン行こうぜ型の戦場用の剣術である。
乱戦に生き残るための剣術だ。
何度も何度もしつこくしつこく言われた事が身体に染み付いている。
「相手の剣を受け止める時には必ず前へ出て受けろ」
これである。
曰く、下がって受けると相手の有利が続く。
一歩でも前へ出て受ければ攻守を逆転させられる。
優勢だった相手が劣勢へと転落する。
俺は剣術の達人であるカッロにカウンター型の戦いに向いていると言われた防御優先の命を大事にタイプである。
前へ出るのは苦手なのだ。
むしろ相手がミスるのをじっくり待ちたい。
そこに喝が飛ぶ。
多少のミスなど勢いと膂力でどうにかなってしまうのだ。
そう、圧と力に捩じ伏せられてしまうのだ。
一歩前へ。
言うのは簡単だ。
しかし振り下ろされる、或いは突き出される剣に向かっての一歩はとても壁が厚いのだ。
ある時、クラウディオ王子がこう言った。
「今から、打たれてもそこで試合終了にしないので打たれながら向かって来い。打たれながら向かう練習だ。行くぞ!」
王子得意の左下からの袈裟斬りが来た。
俺は下がりたくなる気持ちを押さえて斬られるつもりで前に出た。
するとどうだろう。
王子の剣筋は思うようには伸びず不完全に止める事ができた。
王子が飛び退って今度は大上段に構える。
「そうだ、何も盾で剣を止める必要はない。剣で小手を止めよ。もしくは小手で小手を止めよ! 行くぞ!」
鋭い踏み込みと斬撃。
王子の踏み込みと同時にこちらも踏み出せば王子の言う通り小手で小手を止める事ができた。
「ここから先は気合だ!」
王子の力強い前進に押されてやはり俺は引いてしまった。
すると、胴への鋭い一閃。
「今のは良かったぞ! その調子で前に出ることを忘れるな!」
俺は肩を落とした。
押されて引いてしまったからだ。
「押し負けたのは気に病むな。体格差だ。むしろ、そこからお主はやれる事があるだろう?」
押されてやれること?
引く時にやれること?
「行くぞ!」
またもや王子の猛攻。
やれることは何も思いつかないがとにかく前へ出て止める。
王子は更に押して来る。
俺もムキになって押し返す。
背の高い王子に対して少し背の低い俺は下から押し上げるような態勢になる。
あ、そうか。
更に押し返すようにフェイントを掛け、斜め下にしゃがみ込むように相手のプレッシャーを外し王子の膝裏に剣を滑らす。
「そうだ! 見事だ!」
そうか、引かずにズラせば良かったのか。
でもやはり前へ出て止めなければこれは成功しない。
なるほど、前に出るのは大切だな。
「フルアーマーだったらどうする?!」
王子は足を止める事なく踏み込んで来た。
今度は腹狙いの低めの突きである。
引きながら捌きたいのは山々であるがこれまた前に出ながら左手の盾で逸らしそのままの勢いで王子の背後まで抜け、背中から抱きつき足を絡めて押し倒した。
剣を捨て、腰に付けたナイフを抜いて兜と甲冑の隙間に差し込む。
見立てではあるが。
「そこまで!」
外野から声が掛かって俺たちは終わりにした。
立ち上がると師範に頭を殴られた。
「稽古とはいえ、王子を地面に押し倒すとは何事か!」
「失礼しました!」
王子は軽く手を挙げた。
「よい。我がけしかけたのだ。今のでよい。分かっただろう?」
「分かった気がします! ありがとうございました!」
本当に分かった気がする。
俺はガンガン行こうぜ型の自分なりの剣術を身につけつつあった。




