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「オミクロン、貴様、算術だけを教えれば己が使命が果たせるとでも思っていたか? 思い上がるなと言っただろう」
俺はミカエル氏の部屋に呼び出され、説教されていた。
「申し訳ありませんでした。ルカ様に言われたようにはしていたのですが、、、」
「ふん。他人のせいにするか。所詮は船乗りの子供か」
別に船乗りの子供じゃないわい。
漁村の子供だよ。
銛で突いてやろうか。
「ご期待に添えず申し訳ありません。無知ついでに教えて頂きたいのですが、クラウディオ王子はどのような素養を求められているのか教えていただけますか?」
ミカエル氏は苦虫でも噛み潰したかのように眉間に皺を寄せ、大きくため息を吐いた。
「国の上に立つものが、その国の歴史を知らないで民を率いることができると思うか?」
「思いません」
まあ、どうか分からんが。
経済に強い方がよくね?
「他国の貴族の名や家族構成、その力関係を知らずに国交ができると思うか?」
「思いません」
直前に勉強してカンペでも作ればどうにかできるだろう。
「まともな文も書けずに他国の姫と安泰な婚姻が結べると思うか?」
「思いません」
そりゃマズイ。
政略結婚の駒であればこそ恋文でおべんちゃらが使えなくては下手こけば暗殺や裏切りの火種になってしまう。
「それらが必要ということくらい、そこらの羽虫にだって分かるだろうに。要するに貴様の怠慢がこの結果を産んだのだ」
随分言うじゃん。
それは前の教師の責任だろうに。
俺はまだこの国に来てひと月も経ってないんだぞ?
「申し開きのしようもございません。これからは心を改めて使命に励みたいと思います。どうぞその機会を僕にお与えください」
「まあ、貴様をクビにすることももちろん考慮したがリサ様からくれぐれも頼むとあった以上、放り出すわけにもいかん。しかし次はないと心得よ」
「は! ありがとうございます!」
こういうネチっこいタイプってどこにでもいるよな。
そういう奴に限って会社とかで出世するのが本当に意味わかんねえよな。
滅びればいいのに。
歴史と貴族と恋文が次のミッションね。
多分だけど歴史だけじゃなくて他国の地理とか気候とか特産品とか人種構成とかも知らなきゃミカエルは納得しないんだろう。
てか第二王子はミカエルに教わっててちゃんと勉強できてるんだろうか?
そっちの方が凄くない?
あの性格に耐えられるってどんな強靭な精神してんの?
というか、そもそも俺はこの国のことを何も知らないんだ。
それで歴史だなんだと教えれる訳がない。
無理ムリ無理の無理。
不可能だ。
ふーむ、ならば王子に教えてもらおう。
どうせ午前の算術も暇を持て余して剣術してるくらいだし。
そうしよう、そうしよう。




