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 そんなこんなで城の暮らしが始まり、一日のスケジュールが出来てきた。


 空が白んで来たら起きて着替え、のんびりしていると朝食が運ばれてくるのでいただく。

 食べ終えたら王子の剣術の稽古に参加させてもらう。

 それが終わると授業の開始。

 昼食をまた自室で摂ったら午後の授業。

 そのあとは日によるのだが魔術兵らと魔術の練習だったり騎馬兵と馬術だったり参謀さんから兵法を学んだり領地の見廻りをしたり色々だが王子の勉強や稽古に付き合うのだ。


 ◇


 ある日、授業終わりにルカ氏が声を掛けてきた。


「オミ殿、ようやく謁見の許可が降りましたぞ。このまま直ぐに参りましょう」


 そういえば、城に入ってすぐ謁見という話しだったが結局ずるずる先延ばしになってたな。

 変な魔術も使えるし、やっぱ警戒されてたのかな。

 そりゃそうだよな、実の娘の紹介といっても長官はなんていうか、家出少女みたいなもんだもんな。

 家から逃げ出した娘が自分の味方かどうか判断がつかないなら警戒するに越したことはないもんな。


 王子の部屋のあるフロアよりも上のフロアには行くのが初めてだ。

 一旦テラスを経由してそこから見事な広い階段を登って行くとそこが謁見の間だった。


 執務室に呼ばれるとかじゃなくて謁見の間である。

 領主はかつてはポリオリの王だったというその名残りなのだろう。

 広々として高い天井。

 それを支える見事な装飾の施された柱が並び、玉座の両脇にはおそらく歴代の王たちが着用したと思われる豪華な鎧が飾られている。


 玉座は舞台のように高く設えてありその背もたれにも後光のような彫り物が施されている。

 隣の少し控えめな座席は王妃の座る所なのだろう。


 舞台の手前にルカ氏と一緒に跪き、待たされていると玉座の後ろの両開きの巨大な扉から領主が現れた。

 俺は腰を折り、深々と頭を下げた。


「よい、面を見せよ」


 俺は従って顔を上げた。

 領主は玉座に座っていた。

 隣は空席。

 斜め後ろにはお付きの人が立っている。


 謁見の間が凄かったから、王も煌びやかな格好をしているのかと思ったら意外と質素。

 濃い茶の軍服のようなスーツを着ている。

 アーメリア軍に所属しているって訳ではないように思うがこの国のその辺の仕組みは未だいまいち分かってない。

 ルカ氏に聞いておけば良かった。


 そして領主氏は細身だった。

 なんか王様ってでっぷりしてるイメージがあるけど、服装も体型も軍人のようだ。


 領主氏は口を開いた。


「我が娘からの書簡には其方が娘の情夫であると書かれていた。それは誠か?」


 あいつまだそんなことを言ってるのか。

 下手すりゃ首を落とされてたぞ。


「いえ、そのような事実はございません」

「では何故、我が娘はそんな戯言を?」

「わたしが聞いたところによりますと、長官はとにかく旅を続けたいと、そう申しておりました」


 領主は頷いた。


「ふむ、家に縛られたくないと、そういうことか」

「はい。旅をしながら愛を育み、子を成し、産み、育てたいと」

「それほど軍に執着があるのか」

「どうでしょうか、好きに旅ができるのなら軍でなくとも良いと言っていたように思います」


 領主氏は深いため息を吐いた。


「ふむ、、、そうだな、、、。お前を人質に取れば娘は取り戻しにくると思うか?」

「来ないと思います。見ての通り僕はただの貧相な子供です。長官は戯れに僕を拾っただけで、付き合いも半年程です。それが長官の枷になるのなら迷うことなく手放すでしょう」


 お付きの人が口を挟んだ。


「リサ殿はお主には他では教えていない古エルフの魔術を仕込んでいるそうではないか。これはどういうことなのか」

「僕には分かりかねますが、実験なのだと思います」

「実験? 何のだ」

「僕が教わっている魔術は呪いを受ける可能性があると長官は仰っていました。僕の呪いが暴走したら殺して止めると」


 領主はうなだれた。

 こう聞いたら娘がサイコパスのマッドサイエンティストになったかのように聞こえるのだろうな。


「お前はそれで良いのか、逃げようとは思わんのか?」

「思いません」

「何故だ」

「僕は長官に見ていただくまでウォーターボールすら使えませんでした。長官は僕に船での暮らしを教えてくれ、サナ語を学ぶ機会も与えて下さいました。その恩を長官にお返しすることが僕の勤めだと思っております」


 領主とお付きが視線を合わせた。

 お付きが微かに頷く。


 何なに?

 怖いんだけど?

 やっぱり殺されたりする?


「よろしい。お主に害意はないようだ。クラウディオも嫌っていた算術にも励みだしたようだしな。第三王子の教師として城への逗留を許可する。今後も励むように」

「ありがとうございます!」


 領主は立ち上がり、お付きと共に扉の奥へと戻っていった。


 ふと隣を見るとルカ氏がまだ跪いたまま肩を震わせていた。

 涙を堪えているようだ。


「アダルベルト様、お労しや、、、」


 俺は城の滞在が許されてホッと一息なんだが、どうした?

 ちょっと話を聞いてみよう。


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