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第9章ー6

 アラン・ダヴー少尉の内心はともかくとして、「白い国際旅団」をはじめとし、スペイン国民派の諸部隊は、この頃、明るい空気に基本的に包まれていた。

 今年のクリスマスには、内戦は勝利で終わり、特にスペイン人の部隊内では、故郷に帰れて、クリスマスを楽しめる、という空気が部隊全体に漂う有様となっていた。


 それに対して、スペイン共和派の諸部隊は、悲壮な決意を漂わせつつ、総力を挙げての攻撃に打って出ようとしていた。

 それには、スペイン共和派を後援する独ソの事情も絡んでいた。


 この頃、独はスペイン内戦の余波で揺れる仏の政治情勢を見透かして、ラインラント進駐を果たしており、更に、独とオーストリアとの合邦、チェコスロバキアのズデーデン地方の独への帰属等を果たそう、と周辺諸国への根回しにうごめいていた。

 こうした中で、スペイン内戦が激化することは、独のうごめきから、欧州諸国の目をそらすことで、歓迎すべき動きだったのである。


 ソ連の動きは、更に複雑だった。

 1937年7月、山海関等で、中国共産党が事実上指導するようになっていた北京政府軍と、蒋介石率いるいわゆる満州国政府軍の衝突が、相次いで起こり、本格的な内戦状態に突入しようとしていた(ややこしいことに、双方の政府は共に、中国国民党正統政府を、表向きは名乗っていた。)。

 いわゆる満州事変後、事実上の停戦状態が続く一方で、散発的な戦闘が、両政府軍の間で起こってはいたが、ここまでの連続衝突は、初めてといってよい状況だった。

 この背景には、黒龍江省油田が、試掘段階から商業採掘段階に移りつつあることがあった。

 ソ連や北京政府からしてみれば、初期投資を省いて、世界有数の大油田を手中に収める絶好の時期が到来しつつあったのである。

 黒竜江省油田は、本来、北京政府のものであり、日米等の外国が自由にしていいものではない、という大義名分もあって、北京政府は、内戦再開へと舵を取ったのだった。

 そして、ソ連もいざという場合に、北京政府に味方しての満州侵攻を準備しようとしていた。

 また、独ほど露骨ではないが、ソ連にもバルト三国やベッサラビア地方等、欧州内に自国の領土だ、と主張したい土地が複数あった。

 そこへ食指を伸ばす際に、英仏等の目をそらすためにも、スペイン内戦を激化させることが望ましい状況に、ソ連はあったのである。


 こうした独ソの意向もあり、スペイン共和派は、尚更、スペイン国民派への大攻勢に踏み切る必要に迫られていたのである。

 そして、大攻勢を行う場所として選ばれたのは、エブロ河だった。


 スペイン共和派からしてみれば、エブロ河方面での大攻勢に成功することにより、南北に分断されたスペイン共和派の支配領域をつなぐことは、内戦を続け、自らが勝利を収めるためには、必要不可欠と言ってよい条件だった。

 そして、スペイン共和派の支配領域をつなぐ必要がある、という主張は、未だに根強い首都マドリード重視の主張を黙らせる効果もあった。


 半包囲状態にあるマドリード解囲作戦は、1937年2月に、間接的な北部戦線救援作戦として発動されたものの、ろくな戦果を挙げる前に、オビエドが陥落、バスク自治政府の動揺、といった事態を招いたことから、作戦中止に至っていた。

 そして、今更、首都マドリード方面に部隊をつぎ込むことは、スペイン共和派の支配領域の南北の分断を更に大きくしようとする、スペイン国民派の攻勢を容易にしかねない事であるとも考えられた。


 こうしたことから、トハチェフスキー元帥以下のソ連軍軍事顧問団の助言を受けつつ、スペイン共和派の諸部隊は戦力を集められる限り集めて、エブロ河方面の大攻勢に投じようとしていた。 

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