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第9章ー1 エブロ河会戦等

 第9章の始まりです。

 少し題名に偽りありで、エブロ河の戦いの事前説明にそれなりに費やすことになりそうです。


 1937年2月のオビエド陥落から連鎖的に起こったスペイン共和派の北部戦線の崩壊は、スペイン内戦に劇的な展開をもたらした。

 オビエド陥落と相前後して、ローマ教皇庁から訴えられたバスク自治を認める代償としてのバスク自治政府とスペイン国民派の単独講和の呼びかけは、紆余曲折があったものの、最終的にバスク自治政府、スペイン国民派共に1937年4月初めには受け入れが表明される事態となった。


 これには双方の思惑が絡み合っていた。


 バスク自治政府の参加者の多くからしてみれば、スペイン国民派が、バスク民族の自治を認めるのなら、スペイン共和派に殉じる必要は無いという意見が強かった。

 ローマ教皇庁(と英等)が仲介してくれるこの単独講和呼びかけを拒否しては、最早、バスク自治政府はスペイン共和派と運命を共にするしか選択肢が無くなってしまう。

 では、それで勝てるのか、といえば、最もスペイン共和派寄りの面々さえ、バスク民族の意地を飾って散るのが最善である、という有様なのである。

 ローマ教皇庁(と英等)が仲介している以上、少なくともバスク自治政府は存続できるだろう、それに今なら武器を隠匿し、後日の再起を図れるという判断からの苦渋の決断だった。


 一方のスペイン国民派としても、バスク自治政府を認めるという事は、スペインの中央集権を阻害し、バスク民族主義を認めることであり、本音としては認めたくなかった。

 だが、英等の裏工作により、スペイン国内で、スペイン共和派に内通したとして、カトリックの聖職者に対する迫害を、スペイン国民派も行っていることが、徐々に世界中に漏れ出しており、ローマ教皇庁からも、これ以上はスペイン国民派に対する公式非難を行わざるを得ない、という連絡が届くようになっていた。

 更に、英等からは、北部戦線が崩壊した以上、溜まっている援助物資の代金を払え、さもないと、という圧力まで、スペイン国民派に加えられるようになっていた。

 このような状況下で、ローマ教皇庁(と英等)が推し進めるバスク自治政府との単独講和交渉に応じない、という選択肢が、スペイン国民派にあるわけが無かった。


 かくして、バスク自治政府とスペイン国民派は、単独講和交渉に応じることになったのである。

 その単独講和交渉の場として双方の協議の場に選ばれたのは、ゲルニカだった。


 1937年4月25日、土方勇志伯爵は、ゲルニカにいた。

 いうまでも無く、バスク自治政府とスペイン国民派の単独講和交渉の立会人になるためである。

 その場には、ピエール・ドゼー大尉率いる1個分隊が警護の為に付いてきていた。

 そのメンバーの中には、アラン・ダヴー少尉もいる。


「ダヴー少尉は運がいい。いい軍人になるだろう」

 土方伯爵は、ふと思った。

 ドゼー大尉は、1個分隊を選抜する際、指揮下にある4個小隊の内1個をくじ引きで選んだ。

 更にその小隊から、小隊長を含む1個分隊を選抜したのだった。

 そして、選ばれたのが、ダヴー少尉のいる小隊にして分隊というわけだった。


 土方伯爵は、時々思うことがあった。

 軍人にとって、何が重要か。

 人それぞれの答えがあるだろうが、自分が思う限り、才能と意志、それに運だ。

 その3つのバランスが良く、かつ大量に無いと、良い軍人にはなれない。


 ダヴー少尉の率いる小隊は、オビエド攻防戦で負傷者はいたが、死者はいなかった(といっても、日系人義勇兵中隊全体でも5人しかいなかったのだから、確率論的には充分あるレベルだった。)。

 そして、その小隊の指揮ぶりは、直属の大隊長である高木惣吉中佐によると、小隊長の中でもトップを争えるレベルだった。

 後は、意志次第だろうな、と土方伯爵は想いを巡らせた。

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