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第8章ー10

「確かに北部戦線を制圧しないといけないのは分かります。ですが、ア・コルーニャを第一目標にするというのは、西過ぎないでしょうか。バスク等、東から北部戦線を制圧してはいけないのですか」

 アラン・ダヴー少尉は、(第一次)世界大戦以来の実戦経験を誇る高木惣吉中佐に、不遜な態度かもしれない、とは考えたが、思わずそう言わざるを得なかった。


 高木中佐は、微笑みながら言った。

「確かに単純にア・コルーニャだけ見れば、そう考えられるだろう。だが、スペイン全体で見れば、どうかな」

 慌てて、ダヴー少尉はスペイン全体の地図をあらためて見た後、唸り声を上げた。

 ピエール・ドゼー大尉等も、高木中佐の言葉を聞いて、得心したような表情をあらためて浮かべた。


 ダヴー少尉は、自分の考えを整理しながら、言葉を発した。

「つまり、ア・コルーニャを攻撃するのは囮ですか。それによって、首都マドリード防衛に主力を向けている共和派は、北部戦線の為に動かざるを得ない。」

「そういうことだ。我々はそれを逆用して、共和派を叩くのだ」

 高木中佐はそう言った。


「明日から、順次、ア・コルーニャ攻撃のために部隊は出発して行く。中隊の移動準備を整えるように、なお、移動の際には、ある程度はトラックを使っての移動となる。自動車運転が可能な者を、下士官、兵から選んでおくように」

「分かりました」

 高木中佐の命令に、ドゼー大尉は答えた。


 実際、翌日から、順次、ア・コルーニャ攻撃のために「白い国際旅団」所属の多くの部隊の移動が始まった。

 アラン・ダヴー少尉の所属する日本義勇兵第一旅団も当然、移動組である。

 ダヴー少尉自身は、車の運転が出来なくもないが、未熟なのを熟知していたので、部下のフリアン曹長等に任せることにした。

 ちなみに、フリアン曹長は確か17歳、本来的には無免許なのだが、学校を卒業後、車の修理工に就職して、修理の合間に車を動かしていたらしく、ダヴー少尉の部下でも、車の修理、運転共にエキスパートと言っても良い存在だった。

 本当はいけないのだろうか、そんな疑念をダヴー少尉自身覚えなくも無かったが、ここはスペインで、内戦中という非常事態だ、ということでダヴー少尉(や上官のドゼー大尉等)は、目を瞑ることにした。


 実際、フリアン曹長がいなかったら、ア・コルーニャ攻撃のための部隊の移動や物資を運ぶのに、ダヴー少尉達は、もっと苦労したろう。

 12月という冬の時期である。

 しかも冷たい雨が降る日が多く、ある程度はトラックが使えたとはいえ、道路は雨のために、ぬかるみだらけのところが多く、トラックを動かすのにも苦労した。

 トラックが動かなくなるたびに、フリアン曹長が陣頭指揮を執って、ダヴー少尉の小隊の人員を使い、やっとの思いで移動を続けることになった。


 だが、徒歩や馬車で移動することを考えれば、遥かにマシ、とダヴー少尉自身、思わざるを得なかった。

「戦争はつらい日々が続くものだ」

 という高木中佐の言葉を、ダヴー少尉達は初陣前に噛みしめる羽目になった。


 12月末、ア・コルーニャへの移動は完結した。

 新年早々に、「白い国際旅団」を主力として、ア・コルーニャ攻略作戦は発動されることになった。

 ア・コルーニャ攻略が完了次第、撤退する共和派軍に対して、西から東へと更なる追撃を「白い国際旅団」等は加えることになる。


 ダヴー少尉が所属する日系人義勇兵中隊は、日本人義勇兵第1旅団の中の総予備的扱いということになり、取りあえず後方警備任務に就くことになった。

 初陣はお預けか、とダヴー少尉自身、残念に思わなくも無かったが、日本人義勇兵第1旅団の中では練度が低い以上仕方ない、と思わざるを得なかった。


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