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第8章ー9

 あれ、スペイン内戦の戦況が、史実と微妙に違うのでは、という猛突込みが入りそうですが、そもそもこの世界では、独がスペイン共和派に半分味方しており、日英がスペイン国民派に秘かに肩入れしているというふうに、スペイン内戦のバックがそもそも違っていますので、それによるバタフライ効果ということでご了承願います。

 (内心で)頭を振って、先輩のこと等を、一旦、吹っ切った高木惣吉中佐は、ピエール・ドゼー大尉に、日系人義勇兵中隊の現況について報告を求めた。

「実際のところ、中隊は、戦場で戦えそうか」

「充分に戦えます、と言いたいところですが、まだまだ練度不十分です。防御ならまだしも、攻撃に使われるのには、中隊長として躊躇われます」

 高木中佐の問いかけに、ドゼー大尉は正直に答えた。


 全く練度不十分な部隊だったら、むしろ攻撃にしか使えない。

 地形を活用等し、防御を行うのにも、訓練等は欠かせないからだ。

 しかし、その攻撃は、万歳突撃等、無茶な攻撃しかできないもので、軍人としては忌むべきものだった。

 そして、今の日系人義勇兵中隊の練度だが、ドゼー大尉の見る限り、新兵達の集団からようやく脱し、それなりに戦場に出せるレベルに達しつつあるものの、敵の攻撃への防御任務に投入されるというのなら、何とかなるだろうが、火砲等の支援の下、味方同士支援して、敵への攻撃を行うのはきつい、と判断せざるを得なかった。

 高木中佐も、同様に見立てていたのだろう、ドゼー大尉の言葉に深く肯いた。


「だが、実際には、そんな贅沢は言っていられない、というのが現実というものだ。我々は、ガリシア地方に移動し、ア・コルーニャを攻略する任務に就くことになった」

 高木中佐は言った。

 ドゼー大尉達は、その言葉を聞いて、身が引き締まる思いがすると同時に、何故、そこに向かうのか、という疑問を覚えた。


「よろしいでしょうか」

 意を決して、アラン・ダヴー少尉は、高木中佐に質問することにした。

「話せる範囲で構いませんので、何故、我々がそこに向かうのか、教えていただけませんか」

「そうだな。話せる範囲で話すか」

 高木中佐は、ダヴー少尉に目を合わせながら、他の4人にも話すことにした。


「今の全体の戦況は分かっているか」

「マドリードを中心とした首都攻防戦線、カタルーニャ地方を中心とした東部戦線、ガリシアからバスクに欠けての北部戦線が、主に形成され、我々、国民派は共和派に包囲されている戦況にあると言っても過言ではありません」

 ドゼー大尉が、高木中佐の問いかけに答えた。

 他の4人の小隊長も、その言葉に肯いた。


「我々としては、この包囲された戦況を一刻も早く打破する必要がある。首都マドリードを巡る攻防戦は膠着した状況にあり、ある程度の大規模な戦力を投入しないと、マドリード陥落という事態は発生しないだろう。その戦力を抽出する必要もある。それ故に、我々は、北部戦線に向かい、まず、ガリシアからバスクを国民派の勢力下におくことに尽力するのだ。その大作戦の一環として、我々はア・コルーニャを攻撃することになった。これ以上のことは、スペイン全体の地図を見ながら、説明した方がいいな」

 高木中佐のやや長い説明が、まず、あった。


 大隊副官が、その言葉を聞いて、スペイン全体のやや大きめの地図を持ってきて、部屋の中にあったテーブルの上に広げた。

 高木中佐と5人は、それを取り囲むような位置に移動した。


「ア・コルーニャはここになる。ガリシア地方の港湾都市だな」

 高木中佐が、地図の1点を指し示した。


 ダヴー少尉は、それを見て、考えた。

 成程、現在の共和派の北部戦線全体からすれば、最西端の拠点の一つと言えるだろう。

 ここを占領することを皮切りに、西から東へと部隊を進め、北部戦線を潰してしまおうというわけか。

 しかし、西過ぎないだろうか。

 首都攻防戦に投入されている共和派の部隊が攻勢に出て、首都マドリードが解囲されたり、東部戦線で共和派が攻勢に出たら、国民派は対処できるのだろうか。

 ダヴー少尉は疑問を覚えざるを得なかった。

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