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第8章ー5

 かといって、余りにもあからさまに自分達の内心を話すのは躊躇われたことから、土方勇志伯爵と石原莞爾大佐は、表向きはマドリード攻略に集中するよりも、北部戦線をまず潰し、それによって得られた余剰兵力をマドリード攻略に向けるべき、という建前論を第一に唱えた。

 それに北部戦線を潰すことは、スペイン国民派の支配地域を広げることで、スペイン共和派の兵力供給源を減らし、スペイン国民派の兵力供給源を増やすことにもつながる筈だった。


 また、それによって、スペイン共和派の捕虜を、逆にスペイン国民派の兵士に志願させて、国民派の兵士に動員することも可能になる筈だった。

 冷たいようだが、故郷がスペイン国民派に抑えられては、家族や友人を守るために、スペイン共和派からスペイン国民派に寝返らざるを得ない者も多数出るのは間違いない、と考えられたからである。

(実際、スペイン内戦が後半になるに伴い、スペイン共和派から国民派への寝返りは続出する。)


 だが、フランコ将軍ら、スペイン国民派の将帥達も頑固だった。

 彼らからしてみれば、首都マドリードは熟柿のように見えていた。

 後、一押しで、首都マドリードが自分達の手に落ちるのに、何故、暫くとはいえ、諦めねばならないのだという想いを彼らはし、土方伯爵らの説得に応じず、首都マドリードの攻略を強く主張したのである。


 だが、土方伯爵らからすれば、その考えは楽観的過ぎた。

 スペイン共和派の軍の主力となっているのは、労働組合員等を組織化した民兵隊である(この頃から、民兵隊を正規軍に改編する動きが、実際にはスペイン共和派内で加速するのだが。)。

 民兵隊は都市の防衛で最大限の強みを発揮しているのは、これまでの戦歴から明らかだった。

 つまり、首都マドリードの攻防というのは、民兵隊にとって最も優位に戦える戦場と言うことだった。

 そんな相手に有利な戦場を選ぶのは、自殺行為にも程があった。


 土方伯爵と石原大佐は、懸命にスペイン国民派の将帥を説得し、しまいには日英からの軍事援助の件までちらつかせることで、何とかスペイン国民派の主力を、北部戦線に向けさせることに成功した。


 ほぼ丸3日続いた激論が終わった時、70歳近い土方伯爵のみならず、まだ40歳代の石原大佐も、スペイン国民派の将帥を説得するのに疲れ切ってしまっていた。

 とはいえ、石原大佐が見る限り、土方伯爵の目には、まだ秘められた力がみなぎっているようだった。

 さすが、土方伯爵、土方歳三の長男であり、林忠崇侯爵の衣鉢を継ぐ者、と石原大佐は内心で感服した。


「それにしても、よく、黙れ、小童とか、スペイン軍の将帥達を怒鳴られませんでしたな。私だったら、怒鳴っているところです」

 会議中のスペイン国民派の将帥達の、マドリード攻略に固執する石頭に辟易していた石原大佐が、土方伯爵に話を振ると、土方伯爵は笑いながら言った。

「怒鳴っても意味が無いからな。(第一次)世界大戦の時に、イタリア軍の石頭の方が、余程、酷かった。チロル=カポレット攻勢の警告をした林侯爵を、イタリア軍は、無能、バカ提督呼ばわりまでしたからな。そして、チロル=カポレットの大敗責任は、林侯爵に全面的にある、と未だに言っている。あっちの方が余程、酷い」

「それは確かに遥かに酷いですな」

 石原大佐自身も、チロル=カポレットの一件を知ってはいたが、土方伯爵から聞かされると、あらためてその酷さを痛感した。


「何とか、我々の方針を、スペイン軍の将帥達に受け入れさせることができた。後は、これによって勝利を速やかに収めよう」

 土方伯爵の言葉に、石原大佐も肯きながら言った。

「ええ、全力を尽くして、速やかに勝利しましょう」

 作戦会議の話が思ったより長くなりました。

 次話で場面が変わり、アラン・ダヴーが再登場します。


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