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第8章ー3

 この時、土方勇志伯爵や石原莞爾大佐が過去の戦例から思いついていたのは、西洋でいえば第二次ポエニ戦争後期(カンネーの戦い以降)のローマ共和国や、カエサルとポンペイウスの戦いにおけるカエサルの戦略だった。

 日本で言えば、信長包囲網の例である。


 スペイン国民派は共和派に対して内線の利を保持しており、各個撃破が可能な状況にあった。

 だが、スペイン共和派が外線の利を持っており、しかも国民派を包囲している現状にあるとも言える。

 この場合、どう戦うのが、最良か。


 土方伯爵らは、スペイン国民派の将帥が考えるように、スペイン共和派を打倒するには、首都マドリードの攻略が最終的に必要なのは理解していた。

 そして、現状の国力から言えば、スペイン国民派の方が劣勢であり、スペイン国民派の方が長期戦に向かないのも、また理解していた。


 スペイン国民派を支援している日英にしても、無償でスペイン国民派を支援しているわけではない。

 それなりに見返りを期待して、スペイン国民派を支援している以上、短期で内戦を終結させる方が、日英にとって好都合だった。


 土方伯爵らは、様々な戦場諜報を組み合わせた結果、スペイン共和派の内情がバラバラなことに、目を付けることにした。

 スペイン共和派は、バスクやカタルーニャといった民族主義者や、社会主義者、共産主義者の寄せ集めであり、スペイン国民派に対決するという一点で共闘していると言っても過言では無かった。

 その足並みの乱れを衝こうというのだ。


 ガリシア、バスクといった北部戦線に、スペイン国民派が主力を向ければ、スペイン共和派内で救援するかどうかで、足並みが乱れる筈だ。

 首都マドリードなら、救援しようという意見が強いだろうが、北部戦線は所詮は支戦線であり、救援せずに、首都マドリード解囲等、別の作戦を展開しようという誘惑に、スペイン共和派は駆られるはず。

 我々はガリシアからバスクへと、スペイン共和派を徐々に狩り立てて、バスクでスペイン共和派を包囲殲滅する作戦で動く。

 ガリシアなら遠く離れているが、バスクならカタルーニャから近い。

 スペイン共和派は救援するか否かで、内部で更に揉める筈だ。

 何故なら彼ら、北部戦線で真の主力といえるのは、共産主義者や社会主義者では無く、バスク民族主義者だからだ。

 

 スペイン共和派が、救援しなければ救援しないでいい。

 カタルーニャ民族主義者は、バスク民族主義者と同様の目に遭うと考え、スペイン共和派への協力を考え直す筈だ。

 ひょっとすると、内部粛清と言う名の内輪揉めを引き起こす可能性すらある。

 だが、積極的に救援に乗り出そうというのなら。

 それこそ、逆に我々にとって好機だ。

 何故なら、スペイン共和派に、軍事の専門家は数少なく、ソ連や独の軍事顧問団が、その作戦立案において頼りだからだ。

 土方伯爵らは、冷たい考えでソ連や独の軍事顧問団の考えを見据えていた。


 彼らは、スペイン共和派が攻勢に出た場合の実力について、高いレベルで可能と言う前提で作戦を立案せざるを得ない。

 細かい戦術、作戦機動は不可能と言う前提で、攻勢計画等執れるものではない。

 そして、その作戦を潤滑に実行しようとするなら、ソ連や独の軍事顧問団が手取り足取り指導せざるを得ない状況に陥る。

 だが、それでは、現場では外国人が何を言っているという感情的な反発が起こる筈だ。


 信長包囲網等、外線側が敗北したのは、外線側に明確な全体指導者がいない為であることが多い。

 スペイン共和派も同じ弱点を抱えて、スペイン国民派と対峙している。

 バスク等の民族主義者が、スペイン共和派に盲従するつもりはない以上、スペイン共和派の一部も、彼らに内心では反発している筈だ。 

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