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第7章ー9

 ちなみに、「白い国際旅団」の主力を成すのは、日本人義勇兵約1万人であり、次に英国人5000人といったところで、全部で4万人近くに達していた(独自に兵を派遣した伊等は除く。)。

 一方の「赤い国際旅団」にも、最も多いフランス人約9000人を始め、4万人近くが集まった(なお、この数字には、独自にスペイン共和派の民兵に志願した外国人を含んでおり、それを除いた純粋な「赤い国際旅団」の参加者は、約3万2000人から3万5000人程度ではないか、とされている。)。

 共に国民が1人でも参加していた例まで考えるならば、数十か国の国民がお互いに参加していたという。


 そして、フランス人等、スペインの戦場で「白い国際旅団」と「赤い国際旅団」に、それぞれの国民が多数参加し、戦場で銃口を向けあう悲劇も多々起こった。

 だが、日本のように、ほぼ一方にしか国民が参加しなかった例も、それなりにある。

 日本の国民は、ほぼ「白い国際旅団」にしか参加しなかったし、ソ連も「赤い国際旅団」にしか、国民はほぼ参加しなかった。

 問題は、独だった。


 独の国民は、「白い国際旅団」に、ほぼ参加していない、といっても過言では無かった。

 その一方で、「赤い国際旅団」に独から数千人が参加しており、独から共和派に武器の売り込みも行われていた。

 土方伯爵ら日本人の多くが、また、英国政府の一部が、独が、ヒトラー率いるナチス党の一党独裁政治の体制下にある以上、独政府が、左派のスペイン共和派に肩入れし、右派のスペイン国民派に敵対していると考えるのは無理からぬところがあった。

 だが、実際には、独政府には、それなりの論理があって、そのように行動していたのである。


「スペイン共和派から武器の売却希望か」

 その頃、独政府の一室では、スペインへの武器売却について、会議が開かれ、議論が交わされていた。

「本音を言えば、どちらかといえば、スペイン国民派に武器を売却したいが、スペイン国民派には外貨が無いからな」

「外貨を入手するためには、スペイン共和派に武器を売るしかないのか」

「それに、スペイン国民派には、日本が肩入れしているからな」

 その会議の場にいる1人が言うと、別の者が顔をしかめながら言った。

「日本への防共協定の打診は、即、お断りだったな。独が北京政府と全面断交するのならば、交渉の余地はある、という態度を示されはしたが」

「北京政府を全面断交する、ということは、独の外貨入手手段が潰され、再軍備が不可能になるという事だ。今でも外貨不足に悩んでいる我々に死ね、というに等しい。前回の世界大戦のときと言い、日本が独を敵視するにも程がある」


 そう、独には独の論理があったのである。

 スペイン国民派と共和派、どちらが金、外貨を持っているか、というとそれは共和派だった。

 そして、日本は独を敵視しており、スペイン国民派のバックに日本が付いているのは明らかだった。

 独に言わせれば、敵の味方は、敵である。

 何故、スペイン共和派に武器を売らず、国民派に武器を売らねばならないのだ、ということだった。


 ちなみに、独から「赤い国際旅団」に参加した者は、確かに数千人単位でいるが、彼らは、ほぼ共産主義者を中心とする反ナチスの考えの持ち主ばかりだった。

 それなのに、日英の政府の一部は、彼らをナチスの回し者と睨んだのである。

 猜疑心からくる誤解もここまでくれば、半ば喜劇としか言いようが無かった。


「ともかく、外貨入手の一手段でもある。スペイン共和派に我々は武器を売るという事で問題は無いな」

 会議の議長がそう言うと、会議の参加者のほぼ全員が同意した。

「よし、独は、スペイン共和派に武器を売却して外貨を入手しよう」 

 この時の日本政府の論理ですが、日本政府を敵視している北京政府と全面断交をまず、独が先にするのなら、日独防共協定の交渉の余地はあります、そうでないなら、独が共産主義のソ、北京政府とツーカーの仲である以上、日独防共協定の交渉の余地はありません、ということです。

(この世界では、ムッソリーニ率いる伊も同様の論理で、防共協定には不参加です。)


 しかし、外貨不足に悩む独としては、外貨無しで武器とバーターで資源を輸出してくれる北京政府と断交しては、再軍備がほぼ不可能な話になり、呑める話ではありません。

 史実の日本が、米国の対日石油禁輸措置を受けて、対米戦を決意したようなものと考えてください。

(当時の米国政府の一部は、他の国から日本が石油を輸入すれば済むので、戦争にはならない、と思っていたとか。)


 この世界では、誤解が誤解を生み、独はソ連や北京政府と寄り添い、日本は英米と寄り添って、第二次世界大戦への路を歩むことになります。

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