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第6章ー3

 スペイン内戦が小説上でも勃発したので、今後、スペインの左派、反クーデター派等を「共和派」、右派、クーデター派等を「国民派」と、史実に準じて呼称します。

 スペイン本土の国民派の行動は、モロッコのようには行かなかった。

 やはり、事前計画より僅か1日とはいえ、行動を早めなければならなかったので、余裕がなくなったのである。

 また、前述したように、スペイン本土にいる軍の質には多大な問題があった。

 そのため、奇襲による心理的な効果を重視した計画を立てていたのだが、その計画を事前通りに発動できなかったために齟齬が生じ、共和派に立ち直る時間的余裕を与えてしまったのである。


 この内戦勃発当初に、共和派が、国民派の行動を鎮圧するに際して、最も当てにできた力は、労働組合等が主導して組織した臨時の民兵隊だった。

 軍部はほぼ国民派の側に立っており、準軍隊と言える治安警備隊や突撃警備隊の多くが、共和派の指示にはすぐ従わず、風見鶏だった。

 そのため、共和派として、最も当てになる力は臨時の民兵隊ということになったのである。

 

 彼らの一部は、ろくに武器も持たないまま、国民派の部隊がいる兵営を包囲したり、中にはほとんど銃器等を持たないまま、兵営に即時攻撃を掛けたりしたが、これは極めて少数だった。

 だが、この行動は、実際には極めて有効であり、兵営から出られなかったり、兵営への攻撃を受けたりしたところでは、国民派の部隊の多くが投降してきた。

 なぜなら、クーデター勃発当初の混乱は、クーデターを起こした側の国民派にも起きており、国民派の部隊がいる兵営に、ろくな情報が届いていないことも稀ではなかったからである。

 そのため、労働者達が集結して、臨時に組織された民兵隊が大軍と化し、それによって、兵営が包囲されたり、攻撃を受けたりすると、心理的に動揺して、投降する国民派の部隊が多く出たのである。


 このため、後世の歴史家等から、共和派が、速やかにこの時、臨時の民兵隊に大量に武器を提供していれば、もっと国民派の部隊を制圧でき、スペイン内戦の展開は、全く違っていたのではないか、という指摘がなされることがあるが、それは後知恵というべきだろう。

 何故なら、この頃、労働組合等の行動が、かなり尖鋭化していたからである。

 もし、臨時の民兵隊に大量に武器を提供したとして、それによって国民派の部隊を制圧できた場合、今度は、その大量の武器を持った臨時の民兵隊が、共和派政府に、その銃口を向ける危険性は極めて高かった。

 こうしたことを考えると、その時の共和派政府が、臨時の民兵隊に速やかに大量の武器を提供するという決断を下すのは、極めて困難だった。


 一方の国民派にとって、最大の誤算は、海軍の艦船の多くが、共和派についたことだった。

 海軍の士官の多くが、国民派を支持していたことからすれば、意外としか言いようが無かったが、海軍には海軍なりの事情があった。

 海軍の下士官、兵の多くが、その出身(労働者や小作人)から、共和派寄りだった。

 そのため、国民派がクーデターを起こしたことを知った下士官や兵は、国民派の士官を逮捕等して、共和に艦船を提供したのである。

 だが、国民派も、共和派も、外国の介入に翻弄されることになる。


「そんな馬鹿な」

 モロッコからスペインへの国民派部隊の海上輸送を妨害しようと急きょ編制され、出撃したスペイン艦隊の乗組員たちは、相次いで絶句する羽目になった。

 ジブラルタルに駐留していた英地中海艦隊の一部は、明らかに、国民派の兵や物資が乗っている船団を護衛しているとしか見えない航路を執っていた。

 R級戦艦2隻を含む英艦隊に対し、スペイン艦隊には、巡洋艦と駆逐艦しか無く、しかも士官の多くが逮捕されて欠けており、英艦隊に挑むのは無謀としか、言いようが無かった。

 国民派の兵や物資は、モロッコから続々とスペインに届いた。 

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