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第5章ー10

「本音を言えば、あんな所に介入したくないですな。スペインですが、左派よりはマシとはいえ、右派も嫌な臭いだらけですよ」

 梅津美治郎陸軍次官がこぼした。

「全くだな」

 堀悌吉海軍次官も、肯きながら言った。

「だが、右派しか、我々が味方できる存在は無い。仕方のない話だ」

 山梨勝之進海相が、2人に諭し、2人は黙って肯いた。


 前田利為少将は思った。

 かつて、英国のパーティーで、チャーチル元海相と膝を交えて話し合ったことがあるが、その際にチャーチル元海相は言っていた。

「政治というのは、どちらがベターなのか、を選ぶものなのですよ。大抵、ベストは選べません」

「確かにそうですな」

 自分も、その言葉に相槌を打たざるを得なかった。


 スペイン情勢も同じことだ。

 我々は内政干渉と言われようと、国益のために介入せざるを得ない。

 そして、左派より、右派がマシである以上、我々は右派に味方する。

 何故なら、ユーラシア大陸が独裁国家に覆われ、我々が、そこの市場等から排除されることを座視することは、我々にはできない話だからだ。

 それに、共産主義が伸長し、日本国内にまで手を伸ばされては、堪ったものではない。

 早め、早めに共産主義の脅威を排除するしかない。

 前田少将は、そこまで考えを進めた。

 他の3人も、同様に考えているようだった。


「介入するとして、どの程度の介入を考えています」

 前田少将は、他の3人の考えを確認しようと声を上げた。

「わしとしては、武器援助を右派に行う程度だ。だが、ソ連の動きによって、それは変わる。軍事顧問団の派遣を左派に対して、ソ連が行うというのなら、こちらも義勇兵と言う名の実戦部隊を送らねばなるまい」

 山梨海相の言葉に、梅津陸軍次官が声を上げた。

「確かに、軍事顧問団の規模にもよりますが、ソ連の介入によって、左派がスペインを制圧する事態が起こってはかないません。義勇兵と言う名目で部隊を送り込まないといけない事態もあり得ますな。ですが、誰をトップに据えますか」

「確かに厄介だな」

 堀海軍次官も含めて、この場に居る面々は考え込んだ。


 英国の(一部の)意向を考えると、日本が義勇兵については、音頭を取る形になる。

 スペインにおける立場を考えると、日本の将官を義勇兵部隊のトップに据えざるを得ない。

 だが、現役の将官を、予備役編入の上、トップに据えるようなことをしては、日本が積極的に介入しようとしていると公言することに等しい。

 となると、既に予備役編入等になっている将官をトップに据えるのが無難なあたりだろうが、適当な将官がいるだろうか。


 暫く沈黙の時間が流れた後、山梨海相が半ば呟いた。

「義勇兵部隊を編成しなければならなくなったときは、土方勇志伯爵、後備役海軍大将を説得して、義勇兵部隊のトップになってもらうのは、どうだろうか」

「確かに、土方伯爵ならば、英国をはじめとする諸国に対して、与える重みが違います」

 梅津陸軍次官も、肯きながら言った。

 

 土方伯爵は、日清戦争以来の戦歴を誇り、東学党の乱や台湾民主国の独立運動を鎮圧する等、対ゲリラ戦の経験がある一方で、戦車や航空機を駆使した最新戦術にも通暁しているという稀有な軍人だった。

 そして、1927年の日(英米)中限定戦争でも、日英米連合軍の司令官を務めている。

 土方伯爵ならば、英国等からくる(表向きだが)義勇兵部隊も、文句を言わずに統一指揮下に入るだろう。

 ここにいる4人全員がそう考えた。


「それでは、秘かに土方伯爵に、義勇兵部隊のトップになってもらえないか、声を掛けよう。一応、スペイン情勢の最新報告書も、土方伯爵に差し上げて予め見識を深めてもらおう」

 山梨海相が他の3人に言い、他の面々も肯いた。

第5章の終わりです。

次から、第6章に入り、スペイン内戦編に本格突入します。


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