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第5章ー5

 前田利為少将は、更に想いを馳せた。

 弱り目に祟り目とは、このことか。


 ナポレオン戦争後、スペインはガタガタになっていた。

 しかし、少しずつ立て直そうとしていた所に、王位継承をめぐる紛争が起きてしまった。

 ナポレオン戦争後に築かれたウィーン体制において、スペインではフェルナンド7世が王位についていたのだが、フェルナンド7世には王子はおらず、王女しかいなかった。

 そして、スペイン伝統の王位継承法、サリカ法に基づけば、フェルナンド7世の後は、弟のドン・カルロスが王太弟になるのが当然だった。

 しかし、フェルナンド7世は、1830年に王位継承法を改正して、長女のイザベル(2世)を王太女にし、ドン・カルロスをポルトガルに追放してしまった。

 このことに、ドン・カルロスの支持者達、主に伝統主義者達は、激怒した。


 1833年にフェルナンド7世が崩御し、イザベル2世がスペインの女王に即位するのだが、ドン・カルロスの支持者達は、ドン・カルロスがカルロス5世としてスペイン国王になるべきだ、と主張、ドン・カルロス自身も、自分が正統な国王だと主張した。

 このためにカルリスタ戦争が勃発する。


 この戦争は、最終的には1876年まで断続的に3回にわたって続いた。

 イザベル2世側が、主に自由主義、中央集権を唱え、カルロス5世側が、主に伝統主義、教権主義、地方主義を唱えた。

(なお、イザベル2世は1868年にクーデターにより国外追放になり、退位を余儀なくされ、カルロス5世も1855年に崩御する等、途中でそれぞれの主役は変わっている。)


 これによって、スペインでも中央集権主義が強まり、近代化の芽が芽吹くのだが、スペイン国内の混迷はどうしようもないレベルに達していた。

 1814年から1874年までの60年間で37回も軍事クーデター計画が立てられ、その内12回が実際に成功した(裏返せば、平均5年に1回は軍事クーデターが成功している。)。

 1868年にイザベル2世が追放されると、スペインの政治体制をどうするか混迷が引き起こされたが、最終的に1874年にイザベル2世の長男、アルフォンソ12世が王政復古を宣言し、王政に戻った。

 

 スペインのこの王政復古による新体制は腐敗に満ちたものだった。

 表向きは、保守派と自由派が交代で政権を担当していたが、その基盤となる選挙は欺瞞に満ちたもので、農民と小作人は、地主の言うとおりにしか投票できなかった。

 もし、自分の意思で投票したら、そんな農民や小作人は、村から追放された。

 投票結果が、上の定めたとおりになっていなかったら、投票用紙が破棄され、すり替えられるのは当然のこととされていた。

 裁判所も完全に八百長で、正しい裁判等、スペインでは望みようが無かった。


 こういったことは腐敗だ、と誰かが訴えようと考えたら、軍部、君主制、教会の三位一体の正しい政治体制に対する裏切り者とされ、その訴えた者はどんな高位の地位にあろうとも、家族等まで闇の世界の住人から拷問された末に命が奪われる、と覚悟してから訴える必要があった。

 共和主義者、社会主義者、無政府主義者、バスク等の民族主義者等は、この王政復古体制から完全に排除されており、排除された者達も、この王政復古体制を敵視した。


 こんな状況で、まともな政府、軍がスペインに存在する訳が無く、1898年には米西戦争で、スペインは大敗してしまい、フィリピン等を失う羽目になる。

 このショックにもかかわらず、当時のスペインの指導者は、現実を認められなかった。

 何故なら、現実を認めるということは、軍部、君主制、教会の三位一体の正しい政治体制否定になるからだ。

 だが、新しい政治勢力は認めた。

 

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