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第4章ー10

場面が戻っています。

山本五十六将軍と井上成美将軍の会話です。


「空軍のみならず、海軍航空隊も、金属製単葉機への更新が順調に進んでいるようだし、その性能は細かい所を言えば、微妙に不満が残るが、一応は満足できる現状と言えるところかな」

「そうですね。それにしても、部品等の呼称にしても、国内のみならず、ある程度は外国、英米と共通化しないと混乱しそうですね」

「全くだな。機関銃の呼称とかは、いい例だな」

 山本五十六将軍と、井上成美将軍は話した。


 12.7ミリの機関銃をどう呼称するのが、いいのか。

 一昔、日本の陸軍と海軍の間で揉めたことがある。

 ちなみに、この時、空軍はともかく、海兵隊まで陸軍側に立ち、海軍本体関係者から、

「海兵隊の裏切り者」

 と怒りをぶつけられたことがある。

 だが、皮肉なことに第三勢力が介入して、話は収まった。


 その当時、陸軍は11ミリ未満の機関銃は、機関銃であり、それより大口径の機関銃は、機関砲であると呼称していた。

 一方、海軍は40ミリ未満の機関銃は、機銃であり、それより大口径の機関銃は、機関砲であるとしていた。

 当然、呼称はどちらかに統一すべき、という声が上がり(何しろ、海兵隊は、陸軍との協働が当然のようにあるし、空軍は、陸軍航空隊と海軍航空隊の合同で成立したものだし、ということで、陸軍本体と海軍本体の板挟みになった海兵隊と空軍は、統一すべきという声を陰で煽っていた。)、統一することになった。


 その当時の甲論乙駁の議論を鎮めたのは、皮肉にも民間の声だった。

 鈴木、三菱、川崎といった日本の軍需企業は、その当時から、韓国をはじめとする外国への兵器の輸出も積極的に行っていた。

 そして、外国への日本製兵器の輸出の商談の際に、日本では陸海軍で争っており、兵器の開発がまともにできていない、と聞いておりますので、という外国の兵器購入担当者の声に敏感にならざるを得ず(勿論、体のいい断る口実なのは、鈴木等の担当者も、半ば分かってはいた。)、陸海軍に対して、統一してほしいという要望を、日本の軍需企業は出したのである。


 それに、何だかんだ言っても、平時で最大の需要を持つのは、民間の声である。

 民間としては、それこそ細かい用語の一つにしても、できたら統一を、という声が強かった。

 例えば、日本語を外国語に翻訳するにしても、逆に外国語を日本語に翻訳するにしても、一々、陸軍向け、海軍向け、民間向け、と解説書、手引を作らされては、かなわないのは、当然の話だった。

(そんなの当り前では、と言われそうだが、ピストンの呼称一つにしても、陸軍では活塞、海軍では吸鍔、民間ではピストンと一時は分かれており、陸軍や海軍では、ピストンと説明書に書いては分からないので、きちんと説明書には制式の呼称を書け、と民間に指導をする有様だったのである。)


 そういった民間の声(裏では、政治献金等が行われた、という汚い話もあるが)によって、陸軍、海軍、民間の間で、様々なもの、用語から規格までが統一されていった。

 機関銃の呼称にしても、20ミリ未満は機関銃、20ミリ以上は機関砲、ということで妥協が成った。


「本当に、いろいろと統一が必要なのは分かりますが、民間の声が強すぎますな」

 井上将軍は、皮肉を交えて言った。

「仕方あるまい。サムライと言えど、商人には勝てないからな。維新前の大みそかには、金貸し商人の前で腹を切ると脅して、何とか年を越していた、と林忠崇侯爵は言われていたな」

「ドイツ軍やロシア軍には勝てる林侯爵と言えど、金貸しには勝てませんか」

 山本将軍と井上将軍は、そう会話した後、顔を見合わせて、思わず爆笑した。


 金を貸してくれる米国が一番、強いか。

 山本将軍と井上将軍は、口には出さず、そう思った。

 


第4章の終わりです。


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