表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/120

第4章ー3

少し横道にそれます。

「そのためには、我が国の保有する軍用機の性能向上、新型機開発が必要不可欠ですな。そして、そのためには、民間需要の幅広い裾野が必要です。何しろ、我が国の軍需、官需だけでは、どうにも大企業を維持できませんから」

 井上成美将軍の言葉に、山本五十六将軍も肯きながら、言わざるを得なかった。

「正に卓見、その通りだな」


 この当時、日本の二大航空メーカーと言えば、三菱重工と鈴木重工だった。

 それに次ぐ航空メーカーが、川崎重工と愛知航空機だったが、その4社とも本業を別に持っていた。

(それ以外の航空メーカーも、日本国内には複数あるが、実際に空軍なり、海軍なりから軍用航空機開発を命ぜられて、実際に製造する力を持つ民間企業となると、その4社のみだった。それ以外は、4社から製造委託を受けたり、航空機の部品を製造して、それを4社に供給したりする程度の実力しかない、と言っても過言では無い存在だった。)


 航空メーカーとはいえ、三菱重工と鈴木重工は、共に自動車メーカーという表看板を持っていた。

 川崎重工も造船、機関車製造といった表看板を持っている。

 愛知航空機に至っては、本来は時計製造の会社だったのが、軍からの様々な注文を受け、終には航空機製造に乗り出した企業であり、今でも時計製造の方が民間では著名だった。

 何故、そうなったのか、というと、それぞれの企業の経営者と軍の思惑が、奇妙に一致した結果だった。


 企業経営者としては、軍需のみに企業経営を頼ることはリスクが大きかった。

 従って、民需を睨んで、企業経営を考えざるを得なかった。

 また、軍(ここで言う軍は、陸海空海兵四軍全てを含む)も、軍需のみに頼らせていては、軍需関係の企業が発展せず、いざという際の総力戦では役に立たないと考えていた。

 実際、第一次世界大戦において、米国は民需で培った国力を軍需に大規模に転用することで、連合国の勝利に多大な貢献を行っている。

 そういったことから、軍も、軍需関係の企業が、民需を重視することを止めるどころか、後押しする方向に動いた。


 そして、民需の裾野が広がることは、徐々に民間の間で様々な工業規格の統一等、日本の工業化を徐々に促進することにもなった。

 上が頭で考えて行動するだけでは、下は中々動かないが、下が求めることを、上が促進すると相乗効果で発展するのは、ある意味、自明の事柄だった。

 その連鎖効果で、日本は工業化を促進していた。

 

「全く本格的な総力戦に突入したら、日本はどれだけ航空機を製造しないといけないかな」

「最低でも、月に1000機は造らないと追いつかないでしょうな」

「平時に軍需だけで、それだけの航空機産業を維持できるかな」

「絶対に無理ですな」

 山本将軍と井上将軍は、更に会話した。


 月に1000機、というと、とてつもない数字に思えるが、実際に第一次世界大戦では、仏1国でそれだけの損害を1918年に被っていたのである。

 しかも、当時は、米英仏日連合軍が、独軍に対して航空優勢をほぼ完全に確立していた時期だった。

 それなのに、それだけの損害を受けてしまう。

 第一次世界大戦を実地に経験した日本空軍の将帥が、強迫観念に半ば捕らわれているのも、むべなるかな、という状況だった。


「民需と軍需、これを車の両輪のようにして、日本の民間企業を保護育成していく。20年近くも掛かったが、田中義一、宇垣一成陸相ら、加藤友三郎、財部彪海相らの努力は実った、というべきかな」

「実ったと言わざるを得ませんな。それ以外のことについては、いろいろと思うところがありますが」

 山本将軍の問いかけに、辛辣な人物評で知られる井上将軍は答えた。

 井上将軍のその答えに、山本将軍は肯いた。

ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ