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第3章ー4

 蒼龍級空母はともかく、大和級戦艦や高雄級高速戦艦は、提督それぞれの思い入れもあり、甲論乙駁の激論となった。

 当時、空軍に転職しており、桜に錨の海軍よりも、五芒星の陸軍が似合うようになっていた山本五十六将軍が、海軍兵学校同期の堀悌吉提督に対して、海軍の新軍備計画について尋ねたところ、

「新軍備計画の中身よりも、もう、どんな戦艦にすべきか、の議論に時間の大半を費やしているよ」

 と堀提督が、半ばぼやいたという伝説がある。

(後の研究により、海兵同期の間の冗談話という結論になってはいる。さすがに、新軍備計画の方が、海軍の高級将校の間では、はるかに重要だった。)


 大和級戦艦も高雄級高速戦艦も、共に20種類以上の計画案が検討され、議論の場においては、賛成、反対の意見が飛び交う有様となった。

 おもしろいといえるかどうか、微妙な話になるが、最終的に議論が収束するにつれ、大和級戦艦と、高雄級戦艦は、艦の形を似せよう、という話になった。

 遠方からの観測、ないし航空偵察において、どちらの戦艦なのか、敵に迷わせようというのである。

 そのために、大和級戦艦と高雄級高速戦艦は、遠方から一見するだけでは、すぐに分からないように似通った艦の形に建造されることになった。

 以下、大雑把な要目を示す。


 大和級戦艦

 主砲として、46センチ砲を3連装砲塔にして、前部2基、後部1基搭載。副砲として、新しい軽巡洋艦の主砲として新規に開発、製造した15.5センチ砲を3連装砲塔にして、艦橋の周囲に4基配置し、何れの方角にも9門向けられるようにする。対空砲として、12.7センチ連装砲を両舷に3基ずつ配置し、それ以外に40ミリ機関砲、20ミリ機関砲を適宜配置。

 つまり、46センチ砲を9門、15.5センチ砲を12門、12.7センチ砲を12門装備している。


 高雄級高速戦艦

 主砲として、40センチ砲を3連装砲塔にして、前部2基、後部1基搭載。副砲として、大和級戦艦と同等の15,5センチ砲を艦橋の前後に3連装砲塔にして、1基ずつ配置。対空砲として、12、7センチ連装砲を両舷に4基ずつ配置し、それ以外に40ミリ機関砲、20ミリ機関砲を適宜配置。

 つまり、40センチ砲を9門、15.5センチ砲を6門、12、7センチ砲を16門装備している。


 何故、戦艦には、対空能力に優れた10センチ砲を採用しなかったか、というと対艦戦闘において、10センチ砲では不安があると、軍令部が強硬に主張したからだった。

 一時は、副砲と対空砲を統一して、大和級戦艦にも、高雄級高速戦艦にも、両用砲を搭載してはどうか、という提案が、議論に参加していたメンバーからなされたが、巡洋艦級と撃ち合うのには、15センチ以上の副砲が必要不可欠と言う意見が、他のメンバーから強く主張されたことから、採用されなかった。


 実際、英米海軍と違って、巡洋艦や駆逐艦の保有数に、そんなに余裕が無い日本海軍の場合、乱戦となっては、戦艦と言えど、複数の巡洋艦と殴り合わねばならない可能性があった。

 そうなった場合、駆逐艦が搭載しているような両用砲では、巡洋艦を撃退しきれず、雷撃戦に持ち込まれて、巡洋艦の前に、戦艦が敢え無く沈むという危険性は軽視できるものでは無かった。

 そういったことから、後世において、多々批判が浴びせられるが、大和級戦艦にも、高雄級高速戦艦にも両用砲は採用されずに、副砲と対空砲が採用されるという結論になったのである。


 それに1936年前後というこの時代背景も無視できない。

 この当時、航空攻撃で戦艦が沈められるか、というと懐疑論が圧倒的に優勢だった。

 こういった状況下で、戦艦に両用砲の採用は困難だった。 

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