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第1章ー4

 とはいえ、無い物は無い、というのが、現実である。

 土方中佐とその部下達は、海兵隊の戦車用エンジン探しに奔走した。


「陸軍が主導している空冷ディーゼルエンジン計画ですが」

 部下の1人が、土方中佐に報告した。

「どんな感じだ」

 土方中佐の問いかけに、部下は昏い顔で答えた。

「どうにも、芳しくありません」


 日本のディーゼルエンジンを、空冷、水冷共に統制して、軍需、民需を問わずに、各社共通のエンジン規格を作ろうという計画が、当時、陸軍が主導することによって推し進められていた。

 この当時、ディーゼルエンジンは、世界最先端クラスのエンジン規格といえるものであり、部品の共用化等による生産性、整備性の向上を図る必要性が高いと考えられていたからである。

 実際、第一次世界大戦の戦訓等を踏まえた陸軍の主導は、後世から見ても、それなりに効果があったとされていることが多い。

 だが、海兵隊の求める戦車用エンジン規格には、ほど遠い出力しか実現できていなかった。


「V型12気筒クラスエンジンですが、現状では200馬力ていどがやっとです。陸軍は、無理をしてエンジンを2つ積んで、何とか新型戦車(後の97式中戦車のこと)を動かそうとしている有様です」

「新型戦車は、基本は22トン、装甲板等を増やした場合24トンまで可という計画だったな」

 土方中佐は、半ば独り言を言って、部下の認識と自分の認識が一致しているかの確認をした。

「その通りです。新型戦車の重さから言って、400馬力は必要でしょう」

 部下は、土方中佐の意見を肯定した。


「確かに、新型戦車を双子エンジンにする必要が出てくるわけだ」

 土方中佐は、ため息を吐くような思いに駆られながら呟いた。

「だが、それでは、我が海兵隊の新型戦車に、必要な馬力が発揮できているとは、とても言えないな。ここは、ガソリンエンジンに頼るしかないか」

 ディーゼルエンジンでは馬力不足である以上、この当時では、事実上は、戦車用エンジンとしては、ガソリンエンジンしか採用しようがない。

 ある意味、自明の理だった。


 だが、そんな高出力のガソリンエンジン等、そうそうあるわけがない。

 更に、海兵隊用の戦車と言うのがネックになった。


 鈴木重工のある技術者と、土方中佐位の部下の会話の一節

「海兵隊用の戦車と言うことは、どれくらいの量産を考えておられるのです」

「平時がこのまま続くなら、100両程度、限定戦争が起きても、多くて200両が精々だろうな」

 技術者の問いかけに、部下は自分の考えを率直に述べた。

「それに使うエンジンですか。どう見ても、下手に新型エンジンを開発すると、その戦車限定の専用エンジンになりますな。開発費や製造ラインを考えると、バカ高いエンジンになりますよ」

 技術者は忠告した。

 そう言った会話が、複数、土方中佐の耳に届いた。


「こうなると、最早、遺された手段は一つだな」

 土方中佐は、腹を括った。

「既成の航空機用ガソリンエンジンを、海兵隊の戦車用に転用しよう。幸いなことに候補がある」

 イスパノ・スイザ12Yエンジンが、その候補だった。


 後述するが、日本空軍は航空機用エンジンを、基本的に空冷としていたが、技術確保の為もあり、外国製の水冷エンジンを、民間の川崎や愛知に導入、研究させていた。

 そう言った事情から、川崎はイスパノ・スイザ12Yのライセンス生産権を獲得していたのである。

 9試単戦の試作競争の際に、川崎はイスパノ・スイザ12Yエンジンを搭載した戦闘機を、空軍に提案したが、水冷エンジンに対する不安から、空軍は不採用としている。


「このエンジンを、海兵隊の戦車用に転用しよう。開発費を節約できる」

 土方中佐は散々悩んだ末に決断した。

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