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第1章ー3

 海兵隊が採用、製造する予定の新戦車の主砲は、仮に決まったとはいえ、その戦車の製造設備等の難問はまだまだ山積み状態である。

 土方歳一中佐は、こういった事態を解消するために動かざるを得なかった。

 89式戦車の製造は、三菱重工にて行われており、土方中佐は、海兵隊の新戦車の製造も、三菱重工で行おうと、目星をつけていたが、それに待ったを掛ける存在が現れた。


「我が鈴木重工を、戦車の製造に加わらせていただきたい」

 鈴木財閥の総帥、高畑誠一から、熱心な働きかけがあったのである。

 鈴木重工は、小松製作所と提携(事実上は買収して、傘下に置いていた)して、戦車で実績を上げようと画策していた。

 既に、陸軍には、三菱重工が完全に食い入っている。

 ここは、海兵隊の戦車開発に協力して、鈴木重工の名を挙げ、その他の建設、土木機械の売り込みに役立てではどうか、と中島知久平の献策を、高畑は受けたことから、高畑は動くことを決断したのだった。


「それは、願っても無い話だ」

 土方中佐は、純粋に喜ぶことにした。

 三菱重工の戦車の生産ラインは、既に陸軍によって抑えられている。

 海兵隊が一口乗ると言っては、陸軍の戦車製造に支障をきたすとして、陸軍の機嫌を損ねかねない。

 海兵隊の戦車開発は、陸軍の一部の了承を得てはいるが、陸軍全体として見るならば、反対派が多数派を占めると言っても過言ではない。

 だが、鈴木重工なら、その点の問題は無いのだ。

 

 そして、鈴木重工(=小松)の協力により、海兵隊の新戦車の足回り等については、それなりの目途が立ちそうな状況が生まれた。

 だが、二つ、海兵隊の新戦車開発には、まだ大問題が残っていた。

「装甲板とエンジンか」

 土方中佐は、頭を抱え込んだ。


 自動車製造の経験を営々と積み続けたこともあり、金属溶接技術は、それなりに進歩していた。

 装甲板を溶接でつなぐというやり方で、賄うことは何とかなるのではないか、そう土方中佐らは、取りあえずは考えた。

 だが、装甲板は鈴木重工は製造していない(民間自動車製造に、そんな物が必要な訳がない。)。

 海兵隊の新戦車の装甲板開発について、陸軍に協力を求めたが、色よい返事はもらえず、海軍本体に海兵隊は協力を仰ぎ、更に日本製鋼所や東海鋼業株式会社に発注し、という苦心惨憺を舐める羽目になった。

 だが、これすら、エンジン問題に関して考えれば、楽な方だった。

 海兵隊の新戦車の製造で、最大のネックになったのが、エンジン問題だった。


「最も装甲の厚い砲塔正面を、傾斜させた80ミリ鋼鈑として、車体正面を60ミリ、それ以外を基本的に30ミリで覆い、全てを基本的に傾斜させるとして」

 土方中佐は、独り言を言いつつ、大雑把な新戦車の車体重量を概算した。

「約30トンの車体重量になる。ということは、この戦車に必要なエンジンは、最低ラインが500馬力、将来の拡張余地を考えたら、将来見込みとしては600馬力は欲しい所か」

 土方中佐は、絶望的な想いを抱きながら、慨嘆した。


「どう考えても無理な世界だ。戦車用エンジンで500馬力なんて、無茶もいいところだ」

 土方中佐は、更に独り言を言った。

 何しろ、89式戦車に積んでいるリバティエンジンでさえ、350馬力がやっとなのである。

 それでさえ、当時の世界水準から言えば、文句なしに破格の大馬力エンジンと言えた。

 その約1.5倍のエンジンを開発して、新戦車に搭載しようというのだから、無茶にも程があると言える話だった。


「だが、積まないとまともに動かない戦車になるのも事実か」

 土方中佐は、更にぼやいた。

「仕方ない。関係各所に協力を仰ぐか」

 土方中佐は、独り言を言って、海軍本体以下、各所に手を伸ばした。 

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