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エピローグー4

 スペイン内戦が終結した後、早く日本に帰国しよう、と最初は考えていた土方勇志伯爵が、日本に帰国したのは、1938年の3月も下旬のことになった。

 ペタン元帥とマドリードで会談した後、ついでに欧米諸国の旧知の面々等と少し会ってから、日本に帰国しよう、と土方伯爵が考えたのが、そもそもの間違いの発端だった。


 良くも悪くも土方伯爵は、一般人の間ではともかく、欧米諸国の軍人の間では知名度抜群の存在だった。

 何しろ、第一次世界大戦末期の戦車師団長、1927年の南京事件に伴う日(英米)中戦争での日本を中心とする連合軍総司令官という経歴を持つのに加え、スペイン内戦における「白い国際旅団」の総司令官という経歴が加わったのである。

 各国の知人に会うと、ついでと言っては何だが、自分の友人が会いたい、と言っているので、会ってほしい、と頼まれたり、講演を行ってほしい、と頼まれたりすることが多発した。

 土方伯爵の得た最新の戦訓について、直接、会談した面々(マッカーサー等々)は、いろいろと直接、土方伯爵に問いただし、また、最新の主に世界の軍事等の情勢についてのお互いの認識等を話し合った。


 また、こういったことから、サン・シールやサンドハースト、ウエストポイントといった陸軍士官学校でも、土方伯爵は講演を求められて、実際に行う羽目になり、また、士官学校生からの質問責めに遭う羽目にもなった。

 さすがに、ウエストポイント等での陸軍士官学校での講演と質疑応答の後、土方伯爵は、

「私は海軍の軍人だ。何で、陸軍士官学校で講演し、陸軍の軍人から質問責めに遭う等、こんな目に遭っているのだ」

 と愚痴る羽目になった。


 こうして、土方伯爵は、英仏等の西欧諸国を訪問した後、大西洋を渡って、米国を東から西へと横断し、太平洋を渡って帰国した。

 もっとも、横浜港に降り立った土方伯爵を出迎えたのは、家族のみだった。

 何しろ、(表向きだがあくまでも)義勇兵として、スペインに行っていたのである。

 政軍界の要人が誰一人、土方伯爵を出迎えないのは、当然のことだった。

 予め充分に分かっていたこととはいえ、土方伯爵は、欧米諸国での対応と引き比べ、侘しさを感じざるを得なかった。


 船旅で充分休んでいた筈だが、久しぶりの祖国への帰国で安心したのだろう。

 土方伯爵は、帰宅した翌日は、自宅で昼過ぎまで熟睡し、目覚めなかった。

 取りあえず、目覚めた後、海軍省や海兵本部等、関係各所に無事に帰国した旨を連絡するとともに、林忠崇侯爵や岸三郎大将といった個人的な親交がある人に対し、久しぶりに会いたい旨を、土方伯爵は個別に連絡した。

 林侯爵や岸大将からは、待っていたかのように、話したいことがある旨の連絡が、相次いで届いた。


 土方伯爵は、林侯爵にまず会った上で、岸大将に会うことにした。

 その前に、日本の現在の状況を、ある程度は把握しようと考えて、新聞を幾つか読むことにしたのだが、スペインに赴く前と日本の国内外の情勢が、かなり変わっていることに、土方伯爵は慨嘆せざるを得なかった。

 中国内戦は激化の一途をたどっており、宇垣内閣は何とかそれを抑えようとしているが、北京政府はその動きを内政干渉として拒絶しているとのことだった。

 それを受けて、日本の国内でも、北京政府がその考えなら、こちらも、と腹を括った意見を言う者が多数出ているとのことだった。


「本当に第二次世界大戦前夜、と言ってよいような状況が起こりつつあるようだ。これは、林侯爵にいろいろと現状の話を伺わねばならん」

 土方伯爵は、日本の現状に危惧の念を抱かざるを得なかった。

 そして、内心で更に思った。

 自分の子や孫が戦場に行くときが、近づいている。 

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