エピローグー1
エピローグの始まりです。
帰国前後の入国審査を待つ時間を活用して、母の待つ実家に、もうすぐ帰宅する旨、また、ピエール・ドゼー中佐の妻の下へ、自分が来訪したい旨、アラン・ダヴー中尉は、電報を打った。
実家に帰宅すると、ドゼー中佐の妻から、自分の来訪を待つ旨の電報が届いていた。
翌朝、ダヴー中尉は、ドゼー中佐の妻の下へ出発し、その日の午後に、二人は会った。
「初めてお目にかかります。私の名は、アラン・ダヴー、あなたの夫の部下でした」
「こちらこそ、初めまして。ピエール・ドゼーの妻、カトリーヌ・ドゼーです」
お互いに初対面と言うこともあり、初めに二人はぎこちない挨拶を交わした。
応接間へと、ダヴー中尉は、カトリーヌに誘われ、そこでコーヒーを出された。
コーヒーを飲みつつ、ダヴー中尉は、ドゼー中佐の最期を語り伝え、ロザリオを渡した。
他にも戦争中の事について、幾つかの事を、カトリーヌに、ダヴー中尉は問われるままに語った。
ダヴー中尉の話を聞く内に、カトリーヌは感情を堪えられなくなり、涙をこぼしながら言った。
「どうして生きて還ってくれなかったの。私には、あなたが必要だったのに」
ダヴー中尉は思った。
彼女は、カサンドラとは対極の女性だ。
支えてくれる男性無しでは生きていけないタイプだ。
カトリーヌと会って、あらためて分かった。
カサンドラが自分に別れを告げたのは、一緒に暮らすようになったら、お互いに傷つけ合い、心に深い傷を残して別れる羽目になると考えたからだ。
自分も、そう思う。
お互いに芯が強すぎるのだ。
そして、ひょっとして、ドゼー中佐も、似たようなことを考え、妻カトリーヌと息子を自分に託そうと考えたのではないだろうか。
考えすぎかもしれない。
だが、目の前のカトリーヌは、余りにも儚げで、誰かの助けなしには、子どもを育てられそうにないように、ダヴー中尉には見えてならなかった。
気が付くと、夕闇が迫っており、ダヴー中尉は、カトリーヌの下を辞去することにした。
別れの挨拶をした後、去り際、ダヴー中尉は、カトリーヌに言った。
「何かあったら、声を掛けてください。すぐに駆け付けたいと思います」
「よろしくお願いします。自分の親兄弟にも、あの人の親にも頼れないので」
カトリーヌは、それ以上言わなかった。
だが、ダヴー中尉は何となく思った。
二人の結婚に周囲は反対し、ドゼー中佐と二人は、半ば駆け落ち同然に結婚したのだろう。
確かにドゼー中佐とカトリーヌでは、お互いに依存し合い、夫婦生活は共倒れになりかねない。
帰宅したダヴー中尉は、母にあらためて内戦での出来事等、いろいろと尋ねられた。
そして、自分がずっと黙っていようと考えていたこと、カサンドラとのこと、カトリーヌのことまで、自分が我に返った際には、母の半誘導尋問に引っ掛かり、洗いざらい話してしまっていた。
そして、いつの間にか、母が冷たい、見る物全てを凍らせそうな目で、自分のことを見ていることに気づいたダヴー中尉は、自室に逃げることにした。
自室のドア越しに、母が半ば聞こえよがしに独り言を言うのが、ダヴー中尉の耳に入った。
「全く、複数の女に好かれるところまで、あの人、そっくり。娼婦まで惚れさせるんだからね。そして、娼婦の言葉を、真に受けて、大金を使うところも似ている。どうして、あそこまで似たのやら」
ダヴー中尉は、自室に籠り、ベッドに寝転がって、あらためて思った。
まさか、母は娼婦だったのだろうか、そして、父はその客として知り合ったのだろうか。
それにしても、カサンドラのことは心配しなくても大丈夫だろうが、カトリーヌは大丈夫だろうか。
ダヴー中尉は、カトリーヌを支えたい思いが込み上げてならなかった。




