第10章ー9
だが、それは数か月先の話であり、その前、12月6日に「白い国際旅団」は、マドリード近郊で解散式を行い、参加していた義勇兵は、三々五々、本来の祖国、故郷を目指す旅路を採ろうとしていた。
欧州から参加していた義勇兵は、本当にクリスマスを家で過ごせることになった。
勿論、義勇兵には、階級に応じた報酬が(日本人以外には、実際には英国から)英ポンドで実際に与えられていた。
解散式に伴い、更に1年分の報酬が退職金として、義勇兵各自に与えられた。
アラン・ダヴー中尉も報酬を受け取り、更に戦功抜群として、スペインの軍人として叙勲された。
「ご苦労だったな」
解散式の後、ダヴー中尉は、わざわざ土方勇志伯爵に特に呼び出され、声を掛けられた。
「本来なら、日系人義勇兵中隊一人一人に声を掛けたいが、とても叶わない話だ。私もいろいろと忙しい身だからな。それ故、中隊長の君に来てもらった。君から、私が、日系人義勇兵中隊皆に特に感謝していたこと、それを直接、一人一人に伝えられないことを済まない、と思っていたことを伝えてほしい。見知らぬ父の国を想い、その一員として戦いたい、とこれだけの人数が集った。宇垣首相に掛け合い、君達全員が申請すれば、日本の永住権を速やかに与えるように便宜を図ることを約束させてもいる。勿論、君達の妻子も含めてだ。本来なら、日本の国籍を与えたいくらいだが、それはさすがに無理だった。本当に感謝している」
土方伯爵は、ダヴー中尉に声を掛けた。
ダヴー中尉は、胸が一杯になった。
フランコ総統からも、スペインの永住権を、実はダヴー中尉はもらっていた(これは、さすがに「白い国際旅団」の中でも叙勲された者にのみ、叙勲に伴い基本的に与えられた権利である。)。
だが、それとは全く違った喜び、あたかも父からお前はわしの立派な息子だ、と認められたような喜びをダヴー中尉は覚えたのである。
「ありがとうございます。中隊の皆に伝えます」
ダヴー中尉は感激の余り、声を震わせながら答えた。
ダヴー中尉は、すぐに中隊の皆に伝えようと、土方伯爵の前から下がろうとしたが、土方伯爵が半ば引き留めた。
「君は、これからどうするつもりだ」
「フランス陸軍士官学校に復学し、フランス陸軍士官になるつもりです」
「そうか、これだけ実戦で戦功を挙げているのに、今更、復学の必要もない気がするが。そう言う訳にもいかないだろうな」
土方伯爵は、半ば独り言を言った後、付け加えた。
「フランス国防省に、君達の事について、私からも一筆書いておこう」
「それは、ありがとうございます」
「うん。今後、頑張りたまえ」
土方伯爵は、ダヴー中尉が目の前から去った後、少し物思いに耽った。
本当に日系人義勇兵中隊の奮闘ぶりは、我が海兵隊の常備部隊に引けを取らない奮闘だった。
父の名を辱めない戦いぶりだったな。
そして、彼らはこの後、どのような運命をたどるだろうか。
特にダヴー中尉は、知らぬこととはいえ、まだ任官していない異母兄、岸総司よりも出世したな。
ダヴー中尉が、日系人義勇兵中隊に戻り次第、土方伯爵からの言葉を伝えると、中隊の兵達から口々に歓声が上がった。
ダヴー中尉と同様の想いが、皆、込み上げてきたのだ。
「さて、皆、故郷に帰ろう」
ダヴー中尉は音頭を取ると、兵は、皆、肯いた。
兵の一人が、無遠慮にダヴー中尉に尋ねた。
「中隊長は、まっすぐに故郷を目指されるのですか?」
「一晩、考えた後、どうするか決めるつもりだ。ドゼー中佐が埋葬された場所を訪れてから帰ろうか、とも考えている」
本当は別の場所も訪れるつもりだ。
何故か、ダヴー中尉は、カサンドラにこれからのことを尋ねたくて仕方なくなっていた。
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