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第10章ー8

 1937年12月1日、スペイン国民派の諸部隊により、マドリードは完全制圧された。

 これを受けて、英等の諸外国は、相次いで、フランコ率いるスペイン国民派政府を、スペインの正統政府に相次いで承認していった。


「終わったな。後は、スペインの国民同士が和解してくれればいいが」

 その日の夜、マドリード郊外に設けられた「白い国際旅団」司令部において、土方勇志伯爵は、石原莞爾大佐と、内戦終結後のスペイン情勢等について話し合っていた。

「全くですな。ですが、それは中々難しいですよ。そもそもスペインが内戦にまで至り、1年以上も終結にまで掛かったのは、それなりの背景があり、お互いに憎しみをたぎらせていたからです」

「内戦後にすぐに国民和解とは行かないか」

「行くわけがないでしょう」

 土方伯爵の問いかけに、石原大佐は、あくまでも否定的だった。

「だろうな」

 土方伯爵自身も、そう考えていたのか、石原大佐に同意した。


「とはいえ、内戦後も更に憎しみが高まるのは避けねばならん。それに欧州等にこれ以上の混乱を引き起こすわけにはいかん。自分から火をつけておいて言ってはならないことだが」

「それは、その通りです」

 実際、スペイン内戦が終わったとはいえ、数十万人、百万人近い政治難民が、主にフランス等にスペインから流出してしまったのだ。


 この政治難民への対処を主因として、フランス人民戦線政府は崩壊してしまった。

 また、政治難民の一部は、同じ言語を話すこともあり、メキシコ等の中南米諸国、いわゆるラテンアメリカを目指して亡命していった。

 政治難民の多くが共産主義者であり、これによって、中南米諸国の共産党系勢力が強化されるのではないか、と米国は懸念しているし、実際にその兆候が表れつつある、という情報が、前田利為将軍により把握されており、土方伯爵らの手許にまで届く有様だった。


「何か腹案がおありですか」

 石原大佐は、土方伯爵に問いかけた。

「逆効果になるかもしれないが、国際的圧力を掛けるしかないだろうな」

 土方伯爵は、石原大佐に自分の考えを話し、石原大佐は部下を督励して、日本等に連絡を取った。


 1937年12月23日、ローマ教皇庁から、スペイン情勢を懸念する声明が出された。

「同じスペインの国民同士、内戦での事を赦しあい、憎しみの連鎖を断とうではありませんか」

 その声明に、英日伊仏米等の各国政府は賛同の声明を寄せた。

 そして、各国政府は、フランコ率いるスペイン政府に対して、裏から圧力を掛けた。

 いろいろと事情があるのは分かるが、政治難民の帰国を受け入れよ、そして、スペイン共和派への政治的迫害は程々にしろ、という圧力である。

 その代償として、スペイン再建のための投資をするし、兵器等の援助について棒引きにしてもよい、という硬軟ないまぜの対応だった。


 フランコは、外国によるスペインへの内政干渉だ、と内心でかなり反発したが、かといって、これだけの圧力を跳ね返せる力等、あるわけがない。

 それに内戦により、スペインの国土は荒廃しているし、内戦前にスペイン国内に蓄積されていた金や外貨も、スペイン共和派の兵器購入の代価として、ほぼ全てソ連や独に流出してしまっている。

 スペイン再建のためには、外国資本を投入してもらわないと、どうにもならないのは自明の理だった。


 最終的に、単に当時の政府の命令に従ったに過ぎない者等については、特赦を与えるというスペイン政府の声明が出されることになった。

 また、内戦中や直後に出されたスペイン共和派支持者への処罰等に関する法律は、幹部に対してのみ基本的には適用されるということで、スペイン政府と諸外国の政府との間の妥協は、何とかなった。

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