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第10章ー7

 ピエール・ドゼー大尉の戦死を受けて、日系人義勇兵中隊の人事異動が行われた。

「アラン・ダヴー少尉を、中尉に仮昇進させて、義勇兵中隊長代理を命ずる」

 土方勇志伯爵から、高木惣吉中佐を介しての人事異動等の辞令書を、ダヴー中尉は受け取った。


 仮とか、代理とかが付いているのは、「白い国際旅団」の人事に関する最終承認権限は、フランコが握っているからである。

 とはいえ、実際には、土方伯爵がその権限を握っていると言っても過言では無く、土方伯爵の申請書に、フランコが無言でサインするのが当然と言った状況だったので、すぐに、仮や代理が取れた辞令書が、ダヴー中尉の下に来るのは間違いなかった。


「ドゼー大尉は、どう処遇されるのです」

「二階級特進の上で、中佐になり、別途、叙勲されるとのことだ。これまでも超一流の士官としての片鱗を見せていたからな。本当に惜しい人材を、フランス陸軍は失ったものだ」

 辞令式の後、高木中佐は、ダヴー中尉の問いかけに、そう答えていた。


 ダヴー中尉は思った。

 軍人としては、充分過ぎる程の報酬だろう。

 そもそも戦死に伴う特進とはいえ、22歳の若さで中佐という士官が、今の世界にどれだけいるだろうか。

 多分、多く見積もっても3桁いるかいないかで、それも王族とかでないと絶対に無理だろう。

 だが、ドゼー中佐の妻子はどう思うだろうか。

 何よりも無事で帰ってきて欲しい、と思っていただろうに。

 カサンドラとの一件以来、ダヴー中尉自身、自分が皮肉な見方をするようになった、と思ってはいたのだが、ドゼー中佐の一件は、それをさらに深めるものになっていた。


「職務に精励することを期待する」

 高木中佐の言葉に、無言で敬礼して、ダヴー中尉は高木中佐の前を去り、自らの指揮する中隊に戻った。


 こういった思わぬ損害はあったが、バレンシアからの1月余りの進撃の末、マドリードを望見できる場所まで、「白い国際旅団」や他のスペイン国民派の部隊は進撃を果たした。

 この進撃に対し、空路からの補給に頼る状況になったマドリード守備隊は、物資不足もあり、充分な対応ができなかった。

 また、スペイン南部や北部からの部隊もマドリードを目指しており、これらも合流することで、従前から半包囲状態にあったマドリードは完全包囲状態に陥った。


 このような状況にマドリードが陥った11月下旬、マドリード市街では、徹底抗戦を訴える共産党系の部隊と、この際、条件付きの降伏を訴える非共産党系の部隊同士が、更なる内戦を引き起こした。

 それに便乗して、マドリード市街に潜伏していたスペイン国民派の非正規部隊が武装蜂起した。

 ここに三つ巴の戦闘が、マドリード市街で引き起こされた。

 そして、この状況から、フランコは、あくまでも無条件降伏をマドリード(を防衛するスペイン共和派諸部隊)に要求して、マドリードを包囲していたスペイン国民派の諸部隊にマドリードへの進撃を命じた。

 こうなっては、最早、スペイン共和派にとって、スペインに遺された唯一の大都市、マドリード防衛は不可能な話だった。


 11月28日、終にスペイン国民派の諸部隊の第一陣は、マドリード市街に突入した。

 スペイン共和派の部隊の一部による散発的な抵抗は、まだ試みられてはいたが、このような状況に陥ったことから、マドリード防衛に当たっていた多くのスペイン共和派の諸部隊が武器を捨て、投降を決断した。

 そして、これを見た徹底抗戦派の部隊も、多くが投降を決断した。

(だが、一部は、マドリード市街から脱出して、山間部でのゲリラ戦を試みようとし、実際、更にその一部は、それに成功した。)

 ここに、スペイン内戦は、事実上の終結を果たすことになったのである。 

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