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第9章ー14

 アラン・ダヴー少尉らの尋問は、思わぬ余禄があった。

 伝統的に海兵隊は、捕虜に対して正当な取り扱いを重視していることもあり、「赤い国際旅団」に所属していたフランス人からしてみれば、ここまで暖かい取り扱いをしてくれるとは思わなかった、というのが本音のところだった。

 偶然とはいえ、フランス語で丁寧な対応をされ、暖かい取り扱いを受けたことから、聞かれていないことまで話してくれるフランス人捕虜が続出したのである。

 ダヴー少尉らは、それによって得た情報を上に挙げた。


 上に挙がった情報は、様々な見地から、至急、検討されることになったが、その中でもっとも注目された情報は、スペイン共和派の各部隊の後方には、督戦隊が待ち構えていて、部隊が後退したり、脱走兵が出たりするのを阻んでいるという情報だった。

 その情報を聞いた土方勇志伯爵は、スペイン共和派の部隊に憐みすら覚え、思わず呟いた。

「それは、軍隊の機能が半ば崩壊しているに等しい事態だ」


 その言葉が耳に入った蒋緯国少尉も思った。

 中国でも、軍閥同士の抗争の際に、お互いに軍隊がまともではないので、軍隊の中にお互いに督戦隊を置いていた、というのを、父から聞いたことがある。

 父は満州の地に腰を据えて、中国再統一のために軍隊を再建しよう、としているが、督戦隊を設けるようになっては、その軍隊はダメだ、日本のように督戦隊無くして戦える軍隊を作らねばならない、と父も言っている。

 スペイン共和派の部隊は、今やそんな状況にあるのか。


 そんなふうに蒋少尉が想っている内に、土方伯爵は、石原莞爾大佐らと相談し、新たな指令を出した。


「敵の督戦隊の位置等を探り出せか」

 加藤正冶軍曹は、96式司偵を操って、敵軍の偵察に努めていた。

「どうだ。何とか掴めそうか」

「相手も警戒しているでしょうから、難しいですね。でも、ある程度は絞りこめそうです」

「そうか」

 偵察員と加藤軍曹は会話した。


 和田操大佐は、加藤軍曹らが得た情報を精査、整理した上で、戦爆隊に指示を出した。

「第一攻撃目標は、敵督戦隊だ。それから、伝単を撒け。捕虜は正当に取り扱われるとな」


 8月末、エブロ河の水位が下がり、スペイン国民派の逆渡河作戦が発動される頃には、エブロ河前面に展開していたスペイン共和派の各部隊は、崩壊寸前の状況にあった。

 航空優勢は敵の手に完全にあり、攻撃の切り札と考えていた戦車部隊は、ほとんどが最初の渡河作戦の際に失われているのである。

 さすがに、これまでの行きがかり等から、「白い国際旅団」を主力とするスペイン国民派部隊が渡河してくるのを迎撃してこないことは無いが、ダヴー少尉の目で見る限り、懸命の抗戦とは言い難いもので、徐々にエブロ河への架橋作業は成功していき、スペイン国民派の逆渡河作戦が始まった。


「あそこに督戦隊が潜んでいる公算大か」

 逆渡河作戦が始まり、スペイン国民派の諸部隊が続々と化するのを横目で見ながら、加藤建夫大尉は、自らの率いる戦闘機隊と共に、偵察の結果、督戦隊がいると思われる辺りに地上銃撃を行った。

 地上からも機関銃で応戦してくるが、腕が悪く、加藤大尉にしてみれば、花火も同然だった。

「やはりな」

 地上銃撃を終え、高空に上がって、地上を見下ろすと、スペイン共和派の前線陣地が半ば崩壊している。

 督戦隊が混乱したので、前線部隊の一部が逃亡を開始したらしい。

「勝ったな」


 同様の言葉を、同じ頃、ダヴー少尉も言っていた。

 スペイン共和派の前線陣地が、相次いで崩れ出しており、兵の逃亡や投降が続出しつつある。

 自分達の目の前にいたのは、スペイン人だったらしい。

 スペイン語を彼らは話しており、ダヴー少尉は彼らを受け入れた。 

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