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お兄ちゃんのためなら、鬼にも小悪魔にもなってみせるわ。  作者: 日々一陽
第四章 大いなる悲惨~失われたトキメキを求めて
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4章 その4

 その日の放課後。


 考古学部部室の長テーブルにはお子様用ビールと猫屋の羊羹ようかんが並んでいた。

 羊羹の横には誰かが書いた注意書きが置いてある。

 『羊羹は、ようんで食べましょう』

 みんな清々すがすがしくスルーしていた。

 そんな注意書きを寂しげに見ながらグラスを持って大石が立ち上がる。


「考古学部の危機脱出と浅野部長の会長代理就任にカンパ~イ!」


 大石の音頭で考古学部一同がグラスを重ね合わせる。

「しかし浅野部長大変になりますね、生徒会長も兼任だなんて」

 僕の問いに浅野部長は笑顔で応える。

「大丈夫よ、次の生徒会選挙までたった2ヶ月。そうなれば私はお役ご免だし、今の副会長も書記も会計も残ってくれてるし。そんなことより白銀さん、金条寺さん、改めてお礼を言うわ。本当にありがとう。これで阿久里先輩の短小疑惑も晴れて、ふたりには何とお礼を言っていいやら……」


 朝、妃織に続いて事の真相を聞くため僕の教室にやってきた浅野部長に金髪銀髪コンビは今後の生徒会運営について説明をした。内容を要約すると以下の四点だ。


1、副会長以下の現執行部はそのまま残る。

2、その現執行部はみんな浅野部長に好意的で、生徒会運営に何の心配もない。

3、万一何か問題があっても白銀さん、金条寺さんが全面バックアップする。

4、それでもお気に召さない場合、一週間以内ならクーリングオフが利く。


 どうやっらたこんなに見事に手際よく事が運ぶのだろう。

 やはりこの金髪銀髪コンビはただ者ではない。


「しかし」

 浅野部長がみんなを見回す。


「悔しいけれど吉良会長が言った通り、考古学部は最近これと言った成果を出せていないと言うのは事実だわ。もう一度気持ちを引き締めて活動に励みましょう!」


 それを聞いた妃織が手を上げる。

「わたし頑張ります。わたしは星ヶ崎高独自の邪馬台国仮説を打ち立てて見せます」

「妃織ちゃん、その意気よ。妃織ちゃんなら出来るわ!」

「はい。そこでですね、わたし思うんです。邪馬台国の卑弥呼はきっとメイド服が似合う女だったと!」

「……妃織、切り口が僕の理解の遙か上空三万フィートを飛んでるよ」


「ふふっ。なおちゃん、ヒエログリフで愛を語り合いましょっ!」

「色んな意味で理解できないよ、貴和さん!」


「マヤ歴では今日は大安吉日。今から式を挙げてもいいのよ、なっくん」

「茶和さんも、もはやツッコミどころが分からないよ!」


 ……と、和気藹々わきあいあいと考古学部の活動が始まったその時だった。


 ガラガラガラ!


 部室のドアを開け、ひとりの女生徒が入ってきた。


「白銀! 金条寺! 浅野! よくもあたしをめてくれたわね! 卑怯な手を使って、 色んなところに手を回して、よくもあたしをおとしいれてくれたわね!」


 生徒会長の権限を剥奪され失脚した吉良綺羅々会長だ。

 鬼のような形相をして頭には蝋燭ろうそくを三本巻き付けている。


「あらっ、言いがかりは困るわっ。私はただ吉良さんのお嬢様が私を苛めるから、私、吉良さんが大嫌いになりましたっ、って言っただけよっ」

ニコニコ笑顔で応える金条寺さん。


「そうね。吉良さんが考古学部を排斥しようとするから、わたくしも吉良さんを仲間外れにしただけだわ」

 涼しい顔で反応する白銀さん。


「嘘よ、嘘を言わないでちょうだい!」

 吉良会長は顔を真っ赤にして怒り狂う。


「たったそれだけ? そんな筈はないわ。昨日家に帰ったら、吉良家の学校への影響力は全部なくなったから、これからはいい子で過ごしなさいと言われて」

 うんうん、普通それが当たり前だね。


「今日学校に来たら生徒会長の権限剥奪謀議があたし以外の生徒会役員全員のクレーターで可決されるし」

 うんうん、やっぱりクレーターなんだね。クーデターって言い直すのがバカらしくなってきたよ。


「クラスに行ったらあたしの手下軍団『吉良きら~ず』が自主解散しているし」

 うんうん、さすがに愛想尽かされたんだね。グループ名も安直すぎるし。


「あたしの席の椅子引き係も、授業中の教科書めくり係も、授業中のあたしのノート代筆係も、先生に当てられたら代わりに答える代返係も、み~んな勝手に自己都合退任していて、全部自分でやるハメになったし」

 うんうん、みんな自分でやるよね、普通。


「あたしの言うことに相づちを打つ相づち班も、あたしの言うこと全てに賛成するマンセー班も、あたしの自慢話を称賛しまくる腰ぎんちゃく班も、みんな解散していなくなっていたのよ! いったいみんなに何を吹き込んだの!」

 なるほどね。要は親の影響力がなくなって強制力がなくなったから、ここぞとばかりにみんな逃げちゃったって事だよね、これ。


 しかし、そんな簡単なことも吉良会長には理解できていないらしい。

「あなたたち、あたしの周りの子に圧力を掛けたんでしょ! あたしの周りの人ひとりひとりに圧力を掛けて、あたしの悪口を言って回ったんでしょ!」

「そんなことしてないわっ、ねえ茶和っ!」

「そうよ。最初から貴女に人望がなかっただけじゃないの」


 しかし吉良会長は全身から湯気が出るほどに怒り狂いながら、ヒステリックにわめき立てる。


「嘘よ、嘘をおっしゃい! 今に見ていなさい。後悔させてあげるから! 深夜ひとりじゃトイレに行けない体にしてあげるから!」


 そう言うと、彼女は開けたドアを閉めもせずに廊下を走り去っていった。

 ドア閉めないで廊下を走るとは、二重の意味でお行儀が悪い女だった。


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