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お兄ちゃんのためなら、鬼にも小悪魔にもなってみせるわ。  作者: 日々一陽
第三章 降伏な王子(ある晴れた日曜に)
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3章 その7

「何しょんぼりしているの? なっくん」

「えっ!」


 振り返るとそこには長くサラサラな銀色の髪を風になびかせながら、ひとりの美少女が僕を見つめていた。

「こんなところで会うなんて奇遇ね、なっくん」

魂を吸い取られそうな切れ長の瞳が僕を見つめていた。

「白銀さん!」

金条寺さんと学年の男どもの人気を二分する、もうひとりの美少女だ。


「金条寺さん、連れられて行っちゃったわね」

「見ていたの?」

「ええ、だってわたくしが通報したのだから」

「通報?」

「貴和のお家に」

「えっ、それじゃあ……」

「便利よね。携帯電話でピッピッピッ って」

「酷いじゃないか! 金条寺さんが可哀想だとは思わないのかい!」

 思わず語気を強めた僕に、白銀さんは飄々と応える。


「別に。だって朝の待ち合わせの約束を破ったの、貴和だもん」

「えっ?」

「朝十時に公園で待ち合わせして一緒になっくんの寝込みを襲う予定だったのに、貴和のヤツったら、抜け駆けするんだから許せないわ」

「そ…… そうだったの。でも信じられないな、あの貴和さんが……」

 寝込みを襲う……か。おっと変な想像は禁止だ、直弥。


「なっくん、覚えておいてね。女には絶対譲れないものがあるのよ。そのためには鬼にも小悪魔にもなる恐ろしい生き物なのよ」

「……」

「まあ今はお互いに宣戦布告中だから恨みっこなしなんだけど」

 なんだその『宣戦布告中』って。何を戦っているんだ?

「何その『宣戦布告中って何?』って顔は。何なら『現在、巨大ロボ決闘中』に用語変更してもいいわよ」

「よく僕の脳内が読めるね、茶和さん」

「だってなっくんの顔に画像表示されているから」

「顔に書いてある、より遙かに分かりやすいんだね、僕」


「ともかく折角だからわたくしとデートしてくださらない、なっくん」

「えっ、デート」

「そうよ、デート。この通りよ」

サラサラの銀髪を揺らして僕に頭を下げる白銀さん。

春らしい薄い空色のワンピースからすらりと細い脚が伸びる。ストッキングを穿いているせいかその脚は絹のように輝いて、たったそれだけで僕の鼓動を高鳴らせる。


「そんな、頭なんか下げないでよ」

「じゃあ、デートしてくださいますか?」

 頭を下げたままの白銀さん。

「も、勿論だよ。白銀さんとデートだなんて僕もとても嬉しいよ」

女の子に頭を下げられて断れるはずがない。

しかもこんな綺麗な娘に頭を下げられるなんて。


「ふふふっ。やっぱりなっくんは優しいわね。昔と変わらないわ。よかったわ」

 白銀さんは自然と僕の左側に並ぶと僕の腕に彼女の白く細い腕を絡めてきた。

「何処に行きましょうか、なっくん!」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ。誰かが見てるかも知れないし……」

「いいじゃないの。わたくしは誰かに見られて欲しいわ」


 白銀さんは全く気に留める節もなく淡々とした口調で話し続ける」

「それともなっくんは嫌かしら。わたくしと腕を組むの」

 僕は彼女の魅惑的な姿態を視界から外すように真っ直ぐに前を見る。しかし僕の左腕は彼女の胸の膨らみに引き寄せられ、その柔らかくても弾力のある感触が心臓の鼓動を激しく乱してく。


「いや、光栄だよ、茶和さん」

「それじゃあ何処に行きましょうか」

「白銀さんは行きたいところとかないの?」

「そうね。なっくんと一緒なら何処でもいいけど、映画、かしら」

「映画……」

 しまった。

 映画と言えばデートの定番。

 暗闇で危険な罠がいっぱいな、恋人達の無法地帯。

 あまりに王道過ぎて、それを覆す逆提案は思いつかない。

 選択を委ねた僕がバカだった。


「なっくんはどんな映画が好きなの?」

 僕の左腕から彼女の胸の膨らみにある堅いものの感触が伝わる。

 ……乳首だ。

 彼女の乳首が、服越しにではあっても、僕の腕に触れているのだ。

 僕の下半身はその感触だけで危険水域を一気に突破する。

「そうだね…… あんまり深刻じゃないヤツかな。アクションものとかコメディとか」

 なるべく平静を保てる映画にしないと。

 少しでも油断すると彼女の魅力に狂わされてしまう。

「それなら丁度いいのをやっているわ。新しいルパン十三世。見てみない」

「あっ、いいね。観たかったんだ!」

 と言ってしまって気がついた。

 意外とこのアニメって最後ロマンチックだったりするんだ。

 『ルパンはこの城で一番大事なものを盗んだのです。あなたのハートです』とか。

 確かに観てみたいんだけど……


「決まりね。じゃあ映画館に急ぎましょう」

 僕たちは駅の裏側にあるシネマコンプレックスに向かった。


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