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ときめき爆弾注意報2


 「誤解しないでください。私もリュシアン様のことが大好きですし、もっとお会いしたいと思っていますよ。ただ、正直なところ注目を浴びることに慣れなくて……。


 頑張って少しずつ慣れていきますので、もう少し待ってくださいませんか? 敬称なしでお名前を呼ぶのも、砕けた態度で接するのも、私にとっては大きな勇気が必要なのです」


 慈悲を請うてじっと見つめると、こちらに視線を戻したリュシアンが渋々頷いた。


 「君に無理強いするのは本意ではない。君が今の状況に慣れるまで待つし、少しずつでいいから距離を縮めてくれたら嬉しい」


 「ありがとうございます。では、リュシアン様もご協力をお願いしますね」 


 エミリーはにっこり笑いつつ、暗に人前で褒め殺したり、恋人らしいラブラブな空気を出さないよう釘を刺した。エミリーの笑顔に底知れぬ圧を感じたリュシアンはたじろぎつつ、「可能な限り自重する」と約束してくれた。



 食事を再開して会話を続けていると、自然と冬の舞踏会ダンスパーティーの話題になった。


 「もうそんな時期か。時が流れるのは早いな。言われてみれば最近校内の空気が浮足立っている」


 「はい。私のクラスでもみんな心待ちにしています」


 冬の舞踏会は12月の終わり、長期休暇に入る直前に開催される大規模なイベントだ。生徒たちは正装し、魔法で演出されたきらびやかな大広間でダンスを楽しみ、楽団の生演奏に酔いしれながらご馳走を食べる。まさに青春のひとときだ。


 (恋人か婚約者がいる人はパートナーと。そうでない人は親しい友人たちと参加するのよね。昨年はコレットと、それから同じクラスの女生徒と数人で参加したわ。


 残念ながらダンスの機会には恵まれなかったけど、気心の知れた友人たちと美味しい料理を食べて喋ってはしゃいで、とっても楽しかった)


 今思い出しても笑ってしまうような場面の数々が脳裏に浮かび、エミリーはくすっと笑みを零した。 



 クラロ・フォンテの社交シーズンは冬に始まり、夏頃終わる。この時期、貴族たちはこぞって田舎の領地から王都の邸宅タウンハウスへ移り住み、夜毎行われるパーティーや晩餐会に顔を出して積極的に交流を図る。


 ちなみにエミリーの通う魔法学校には多数の貴族の子息子女が在籍しているが、在学中は学業が優先される。しかし、学校が長期休暇に入ると、シーズン中は王都の邸宅へ戻り社交に精を出すのが一般的だ。


 (だからパートナーや友人たちだけで気楽に楽しめる舞踏会をみんな楽しみにしているのよね。無事に一年を終えられた安心感と、冬休みに入る前の開放感は格別だもの。普段は厳格な先生方も、舞踏会の日は多少羽目を外しても目を瞑ってくださるし)


 「エミリー。君は今年の舞踏会に誰と行くかもう決めたのか?」


 思案に耽っていたエミリーは、思いがけない質問を受けてパチパチと瞬きをした。 


 「え? 私はてっきりリュシアン様と参加するものだと思っていました。もしかしてどなたかと先約がありましたか?」


 「いや、そうではない。舞踏会はパートナーがいれば共に参加するのが習わしになっているが、今回は学校行事の範疇で義務ではないだろう? 同じクラスの親しい友人達と参加してもいいと思ってな。


 女性は卒業後結婚する者が多い。それに卒業後は身分差もあって今ほど気軽に交流するのは難しくなる。だから君が友人たちと楽しみたいのなら、譲るつもりでいた」


 エミリーの心情を慮り、友人と参加する選択肢を示してくれたリュシアンに驚いた。彼の深い思いやりと愛情に感動し、言葉に詰まる。


 すると、『別にオレはエミリーと参加できなくてもかまわない』と誤解されては堪らないというようにリュシアンが言葉を重ねた。


 「もちろん本音を言えばぜひ君と参加したい。だが、オレと舞踏会に参加する機会は今後いくらでもあるだろう。だからオレに遠慮せず、君が心から願うことを選んでほしい」


 優しい眼差しを向けられ、エミリーは胸がいっぱいになった。リュシアンはいつだってエミリーの願いを一番に叶えようとしてくれる。そして『今後いくらでもある』というのは、彼の思い描く未来にエミリーの存在が含まれているということだ。


 「――温かいお心遣いをありがとうございます。私、リュシアン様のそういうところが大好きです」


 「っ!!」


 突然の愛の告白に胸を射抜かれるリュシアン。彼が無言で喜びを噛み締める姿が可愛くて、愛おしさが増した。


 「今度ご紹介しますが、私にはコレットという友人がいます。彼女とは同じクラスなのですが寮の部屋も同室で、とても仲良しです。


 昨年は彼女と数人の女生徒たちで舞踏会に参加しました。楽しかったのですが、今年はそれぞれ先約があって、いずれにしても共に参加するのは難しいかと」


 「そうなのか?」


 「はい。なのでぜひリュシアン様と参加させてください」


 明るい笑顔を浮かべると、リュシアンは喜びが限界突破した。真正面から神々しい八分咲の笑みを直撃したエミリーをはじめ、周囲で流れ弾を食らった女生徒たちが危うく昇天しかけている。


 「リュシアン様!? あの、さすがにお顔が緩みすぎです……!!」


 これ以上被弾する女生徒を増やすまいと命懸けで忠告すると、リュシアンはハッとして口元を掌で覆った。


 「っすまない。先ほど君に告げた言葉に偽りはなかったが、君を舞踏会でエスコートする権利を得たことが想像以上に嬉しかった。しばらく顔が緩むのを抑えられそうにない」


 「リュシアン様。とても嬉しいお言葉なのですが、周りにいる女生徒の方々がときめきで瀕死なのでもうお口を閉じてください」


 最大級のときめき爆弾を投下したリュシアンの周囲には、思わぬ爆撃を受けてときめきに身悶える女生徒たちが続出した。

 


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