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OIS-005「隠れた本音」


 幼馴染である佑美が、異世界で聖女と呼ばれていることを告白されてから数日。

 自然と、家での話は異世界が中心になる。


 俺も、気になって仕方がないからな。


「それでね。領主と王様がいるみたい。後貴族とか」


「なるほどな。こっちでもあった、一般人は守られる代わりに労働力をって構造か」


 ちなみに、違う世界から来たってのは一発でばれたらしい。

 というのも、昨日向こうに行った時にちょうど扉から出てくるのを目撃されたとか。


 既に頭が痛いけれど、村人も害がないなら騒ぎ立てたくないようだった。

 食うに困って、とか病気で大変なことになってるとか、困窮していないのが一番の理由だろう。

 

 外からの相手には、引きこもっていた里から出て来たので世間知らずだという形で対応予定らしい。

 もっとも、面倒ごとは関わらない方が安全ということかもしれないが。

 思ったより文化が進んでる気がするのは、魔法というものがあるからだろうか?


「これからの動きは、佑美が向こうで何をしたいか、だ。このまま田舎のちょっと不思議な人、ってぐらいにするのか。村を大きくして、それこそ女領主になるぐらいまで頑張るか」


「私が? うーん、なんだか想像できないなあ」


 言いながら、自分も極端なことを言ったなと考える。

 佑美は……間違いなく善人だが、善人でしかない。

 俺だって、いざという時に人を処罰するような判断ができるかは悩みどころだ。


 でも、向こうで力を隠しながら生きていくのには、きっと限界がある。

 そうなったとき、ただの交流だけでは佑美が自分を守れない。


「っと。そうだ。あの扉は向こうで閉じたり、別の場所に出せるのか? 今はまだ森の中っぽいけど」


「え? ああ。最初は固定だったんだけど、今はちょっと動かせるよ。村の私用に用意してくれたお家に出るようにしてる」


 軽い調子で言ってくるあたり、やっぱりそのあたりの覚悟みたいなものは、まだなようだ。

 ここしばらく、見送る時の俺の気持ちは……恥ずかしいけど、大事なことだ。


「佑美、何かの拍子に戻ってこれない覚悟は……出来るだけ早く決めろよ」


「戻ってこれない覚悟? え、なんで?」


 佑美の気持ちも、十分わかる。

 恐らく、俺が佑美の立場だったら興奮とか、向こうが楽しすぎて考えることもない。

 前もそうだったように、ある意味無関係だからわかるのだ。


「古いけどさ、猫型ロボットの映画に、似たようなのがある。後半、段々とお互いをつなぐ扉が遠くなって、最後には行けなくなるんだ。かなりぎりぎりの距離でね」


「あっ……そっか……」


「厳しくなって、どうしても行きたいってときは俺に声をかけろよ? 一緒に危険に踏み込んでやるさ」


「……ありがと」


 本当は別の理由もあるけれど、ここで脅しのように言うことでもないかなと思う。

 それに、悲しいことに人間、実際に恐怖しないとしっかり意識できない物だ。

 そう、佑美自身に何かあって戻ってこれないような状態になる可能性、なんてことは。


「どうしたらいいか、どういったことが出来るか。一緒に考えてもらってもいい?」


「任せろ。佑美だけ危ない目に合わせるかもしれないのが心苦しいが、オタクの夢が今叶ってるんだからな」


 出来るだけ、気負わせないようにと、明るく言ってやれば佑美も微笑んだ。

 いつ以来だろうと思いながら、机を膝付き合って向かい合う。

 宿題をああでもないとこなすかのように、話し合いをしていくうちに夜も更けてくる。


「もうこんな時間か。今日は戻るよ」


「うん……あっ、ねえ……泊ってって……?」


 部屋を出る直前、背中にかけられた声は弱弱しかった。

 振り返れば、声と同じく落ち込んだ様子の佑美。


 昔、大きな台風が来るってときに同じような姿を見た気がするな。

 それと比べると、ドキッとする気持ちを隠すのは大変だ。


「向こうに行くのが怖いってことじゃなくて……向こうだと、にぎやかだったから寂しくて」


「わかったよ。着替えぐらいはもってくる」


 細かいことは言わずに、そう告げて一度家を出る俺を、佑美は玄関まで見送るなんてことになった。

 手早く着替えとかを準備して出てくると、佑美は家の玄関で待ったままだった。


「俺はどこにも行かないよ。向こうで、親子でも見て寂しくなったんだろう?」


「なんでわかったの? そうなんだよね。泥だらけで、大変そうだったけど……楽しそうだった」


 俺も子供、佑美もまだ子供。

 本当ならというとあれだけど、親と一緒にいるのが当然の歳だ。

 今日ばかりは、親がいないことが多いことに、ちょっとだけイラっときた。


 客間兼物置代わりの部屋を、2人して掃除機をかける。

 いうほど埃もあるわけじゃないけど、なんとなくだな。


「よかった……」


「なんか言ったか?」


「ううん」


 掃除機の音に紛れ、何かつぶやかれたような気がしたが気のせいだったらしい。

 そうして掃除を終え、少し遅いけど食事を……ああ、これもそうだな。


「佑美、よかったらその……一緒に暮らさないか」


「えええ!?」


 予想外の大きな声。

 最近化粧を覚えたらしい頬が真っ赤に……って。


「違う違う。佑美だって出来るだけ向こうにいたいだろう? だったら、家事もまとめたほうがいいかなって。後、万一鍵を閉め忘れた状態で誰かが来て扉が見つかってもまずいだろ。それこそ、突然親が帰って来たとかさ」


「え? ああ……そ、そうね! でもそれだと、噂にならない?」


「今さらだろ。夫婦扱いは中学時代からなれたもんだよ」


 これは嘘ではない。実際、からかい混じりというか、そういうことは度々ある。

 付き合ってるのか?と来た時には想像にお任せするよ、って躱したこともあるが。


「うー……じゃあ、じゃあ! 不束者ですが、よろしくお願いします」


「こちらこそ、だな」


 そこまで言ってから、何かが妙におかしくて、2人して笑い出すのだった。


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