表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/36

OIS-035「新しい明日」



 久しぶりの、両親たちとの再会。

 いつもならお土産と共に、色んな話を聞いたりする時間。


 でも今日は、俺たちの話を聞いてもらう日だ。


「私は夢を見て……るわけないよなあ。皆もいるし」


「ああ、そうだな。まさか地元で、こんなものに出会うとは思っていなかったが」


「思ったより、冷静だね、父さんたち」


 細かい話をするより、見せたほうが早いと判断した俺と佑美。

 秘密のお出かけをしてるの、なんて言葉を発した後、互いの両親の前で、扉を作った。

 そして、驚いてる間に向こう側に消えて見せ、すぐ戻ってきたのだった。


「いや、驚いてるぞ? こう、なんていうのか。叫んでもどうにもならないことの方がいいことは、大人だと知ってしまってるだけだな」


 少し悲しい話だが、と続ける父の姿は、決して情けなくはなかった。

 お互いの母はというと、佑美が持ち帰っている異世界の洋服や小物に夢中だった。


「要は、2人がやってるようなゲームみたいな世界が、あると」


「急に一緒に生活しだしてたのは、これかぁ……」


「私たち、てっきり、ねえ?」


「そうそう。そう思ってたのに……」


 4人が何を言いたいかがわかると、ものすごく恥ずかしい。

 もっとも、そのこともこの後ちゃんと言わないといけない。


「それでさ。こう、外に大っぴらに知らせるつもりはないんだ。大事になるし、まともに人生過ごせなくなる気がする。でも、無かったことにするのも難しいと思うんだ。だから、考えたのがさ」


 佑美に異世界での生活は続けてもらい、異世界の物品を個人で売って生活しようというもの。

 ノートにまとめておいたそれを、現物と一緒に見てもらった。

 4人とも、具体的な商材は違っても、同じように扱う会社員だ。

 徐々に、表情が真剣な物になっていく。


「私からは1つだけ。佑美ちゃんに何かあった時、どうする?」


「戻ってこなくなったら、一生かけてでも行く方法を探すし、大怪我してとかなら、働いてなんとかする」


 言うのは簡単、そう……簡単だ。

 説得力という点では、あまりない言葉しか出てこない。

 それでも大きく反対しないのは、異世界への扉という現実があるからだろうか。


「こそこそと、隠れて続けられるよりは、その方がいいわよ、アナタ」


「こちらもそれには同意です。そうでないと、佑美が異世界に家出しそうだ」


「そ、そんなつもりはないけどっ」


 両親に理解がありすぎるのか、現実がそれだけ衝撃的だったのかはわからない。

 それから、色んな事を確認されて……結局、俺たちの計画は条件付き承認となる。


 可能な限り、勉学に励んで俺は進学は試みること。

 佑美は佑美で、色んな事を覚えるように言われた。


 計画への対応としては、両親たちが近くに倉庫代わりに家を借りてくれることになった。

 実際に、どこかのお店の倉庫だったらしいそこは、長い間空き家だったとのこと。


 ここに、両親たちの伝手で適当に雑貨を集め、販売してる中に混ぜていくようにと指示される。

 規模が拡大出来次第、異世界ものだけにしていけばいいとのことだった。


「副業は自由だからな。私の名前で、手続きはしておく」


「ありがとう、父さん!」


 とんとん拍子とはこのことだ、まさにそう感じている。

 俺の見つめる先で、父は微笑みながら、佑美の持ち帰ってきたものの一部を手に取っている。


 怪物の、牙だ。


「佑美ちゃんを、守ってやれよ。体は向こうだから無理だろうが、心はこっちだってできることはある」


「もちろん。そのさ……ちゃんと稼いで、あっちに挨拶しないといけないと思ってる」


 俺の言葉に、父が驚いた様子を見せる。

 が、すぐに笑みを浮かべて、肩をポンポンと叩いてきた。


「頑張れよ。息子よ」


「ああ!」


 なんだか、久しぶりのちゃんとした会話だった気がする。

 家に戻ると、佑美は母2人にもみくちゃにされていた。

 何があったかと様子を伺うと……ああ。


「だから魔法は内緒にしておけって、言ったろ?」


「うう、だってぇ」


 多分、楽しくて、嬉しくて。

 癒しの魔法の事を、話してしまったのだ。

 仕事で疲れてる女性相手に、癒しの魔法を使うとどうなる?


(こうなる、よな。ぐいぐい来てるもん)


 明らかに疲れが取れ、しわも減っている。

 若返りとまでは言わなくても、元々の綺麗さを取り戻したってやつだ。


「どうにかして、健康食品ぐらいの枠で安定供給できないかしらね?」


「やめとけって、騒動になるとばれるよ。身内だけの特権にしとかないと」


 人間の欲に、限界はない。

 しかも、効果があるとなればなおさらだ。


 説得?が上手くいったのか、母2人も父たちの元へ。

 結局、またすぐに仕事に戻るかららしい。

 ようやく、落ち着いた感じだ。


「災難だったか?」


「ううん。疲れたけど、必要なことだし……異世界で、聖女やってますって言っちゃったのがちょっと失敗だったかな」


 笑う佑美は、輝いていた。

 心配事が無くなって、すっきりしたからだろうなと思う。

 これからは、もっと佑美は活躍するだろう。


 異世界の知識と物を携えて、癒しの奇跡を行使する聖女として。


 気が付けば、互いに向かいあい、見つめ合っていた。

 佑美の背後には、異世界への扉。


「聖女様。どうか私に、貴女を守らせてください」


「ええ、ええ。この身は離れていても、心はいつも貴方と共に」


 別の指に付けていた指輪が、差し出される。

 受け取った俺は、彼女の左手を持ち……。




 日記を、付け始めることにした。


 毎日が発見で、毎日が驚きだからだ。


 タイトルは決まっている。


 俺の幼馴染が、異世界で聖女をしていると言い出したんだが、だ。




 

お付き合いありがとうございました


新作も始めました。

https://book1.adouzi.eu.org/n1136fy/

魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ