OIS-035「新しい明日」
久しぶりの、両親たちとの再会。
いつもならお土産と共に、色んな話を聞いたりする時間。
でも今日は、俺たちの話を聞いてもらう日だ。
「私は夢を見て……るわけないよなあ。皆もいるし」
「ああ、そうだな。まさか地元で、こんなものに出会うとは思っていなかったが」
「思ったより、冷静だね、父さんたち」
細かい話をするより、見せたほうが早いと判断した俺と佑美。
秘密のお出かけをしてるの、なんて言葉を発した後、互いの両親の前で、扉を作った。
そして、驚いてる間に向こう側に消えて見せ、すぐ戻ってきたのだった。
「いや、驚いてるぞ? こう、なんていうのか。叫んでもどうにもならないことの方がいいことは、大人だと知ってしまってるだけだな」
少し悲しい話だが、と続ける父の姿は、決して情けなくはなかった。
お互いの母はというと、佑美が持ち帰っている異世界の洋服や小物に夢中だった。
「要は、2人がやってるようなゲームみたいな世界が、あると」
「急に一緒に生活しだしてたのは、これかぁ……」
「私たち、てっきり、ねえ?」
「そうそう。そう思ってたのに……」
4人が何を言いたいかがわかると、ものすごく恥ずかしい。
もっとも、そのこともこの後ちゃんと言わないといけない。
「それでさ。こう、外に大っぴらに知らせるつもりはないんだ。大事になるし、まともに人生過ごせなくなる気がする。でも、無かったことにするのも難しいと思うんだ。だから、考えたのがさ」
佑美に異世界での生活は続けてもらい、異世界の物品を個人で売って生活しようというもの。
ノートにまとめておいたそれを、現物と一緒に見てもらった。
4人とも、具体的な商材は違っても、同じように扱う会社員だ。
徐々に、表情が真剣な物になっていく。
「私からは1つだけ。佑美ちゃんに何かあった時、どうする?」
「戻ってこなくなったら、一生かけてでも行く方法を探すし、大怪我してとかなら、働いてなんとかする」
言うのは簡単、そう……簡単だ。
説得力という点では、あまりない言葉しか出てこない。
それでも大きく反対しないのは、異世界への扉という現実があるからだろうか。
「こそこそと、隠れて続けられるよりは、その方がいいわよ、アナタ」
「こちらもそれには同意です。そうでないと、佑美が異世界に家出しそうだ」
「そ、そんなつもりはないけどっ」
両親に理解がありすぎるのか、現実がそれだけ衝撃的だったのかはわからない。
それから、色んな事を確認されて……結局、俺たちの計画は条件付き承認となる。
可能な限り、勉学に励んで俺は進学は試みること。
佑美は佑美で、色んな事を覚えるように言われた。
計画への対応としては、両親たちが近くに倉庫代わりに家を借りてくれることになった。
実際に、どこかのお店の倉庫だったらしいそこは、長い間空き家だったとのこと。
ここに、両親たちの伝手で適当に雑貨を集め、販売してる中に混ぜていくようにと指示される。
規模が拡大出来次第、異世界ものだけにしていけばいいとのことだった。
「副業は自由だからな。私の名前で、手続きはしておく」
「ありがとう、父さん!」
とんとん拍子とはこのことだ、まさにそう感じている。
俺の見つめる先で、父は微笑みながら、佑美の持ち帰ってきたものの一部を手に取っている。
怪物の、牙だ。
「佑美ちゃんを、守ってやれよ。体は向こうだから無理だろうが、心はこっちだってできることはある」
「もちろん。そのさ……ちゃんと稼いで、あっちに挨拶しないといけないと思ってる」
俺の言葉に、父が驚いた様子を見せる。
が、すぐに笑みを浮かべて、肩をポンポンと叩いてきた。
「頑張れよ。息子よ」
「ああ!」
なんだか、久しぶりのちゃんとした会話だった気がする。
家に戻ると、佑美は母2人にもみくちゃにされていた。
何があったかと様子を伺うと……ああ。
「だから魔法は内緒にしておけって、言ったろ?」
「うう、だってぇ」
多分、楽しくて、嬉しくて。
癒しの魔法の事を、話してしまったのだ。
仕事で疲れてる女性相手に、癒しの魔法を使うとどうなる?
(こうなる、よな。ぐいぐい来てるもん)
明らかに疲れが取れ、しわも減っている。
若返りとまでは言わなくても、元々の綺麗さを取り戻したってやつだ。
「どうにかして、健康食品ぐらいの枠で安定供給できないかしらね?」
「やめとけって、騒動になるとばれるよ。身内だけの特権にしとかないと」
人間の欲に、限界はない。
しかも、効果があるとなればなおさらだ。
説得?が上手くいったのか、母2人も父たちの元へ。
結局、またすぐに仕事に戻るかららしい。
ようやく、落ち着いた感じだ。
「災難だったか?」
「ううん。疲れたけど、必要なことだし……異世界で、聖女やってますって言っちゃったのがちょっと失敗だったかな」
笑う佑美は、輝いていた。
心配事が無くなって、すっきりしたからだろうなと思う。
これからは、もっと佑美は活躍するだろう。
異世界の知識と物を携えて、癒しの奇跡を行使する聖女として。
気が付けば、互いに向かいあい、見つめ合っていた。
佑美の背後には、異世界への扉。
「聖女様。どうか私に、貴女を守らせてください」
「ええ、ええ。この身は離れていても、心はいつも貴方と共に」
別の指に付けていた指輪が、差し出される。
受け取った俺は、彼女の左手を持ち……。
日記を、付け始めることにした。
毎日が発見で、毎日が驚きだからだ。
タイトルは決まっている。
俺の幼馴染が、異世界で聖女をしていると言い出したんだが、だ。
お付き合いありがとうございました
新作も始めました。
https://book1.adouzi.eu.org/n1136fy/
魔法の道具、治します!~小物好きOL、異世界でもふもふライフを過ごす~




