表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/36

OIS-034「妄想か、現実か」



「進学も考えるが、そのまま就職もあり、と。本気なんだな?」


「はい。両親を見て、叶うなら同じような仕事がしたいなと思っています」


 2年生ともなれば、簡単ながら進路相談の類がある。

 今日は、その日だったわけだが……予想通りと言えば予想通りの表情。

 担任の先生は、白髪の混じったおじいちゃん先生だ。


 事前に提出した用紙には、進学に加え、就職に関することを書いた。

 先生も、まだぼんやりした話だと思っていたところに、妙に具体的だから少し驚いたといったところかな。


「なるほどな……実はな、あっちは永久就職とか書いてきてな? どう扱った物か……」


「佑美の奴……。すいません、先生としては何とも言いづらい話で」


 一昔前ならともかく、今の時代だと色々と問題になりそうな単語だ。

 たぶん、お嫁さんとは書けなかったんだろうなと思うのだけども。


(というか、先生にも伝わってるわけだ)


 この学校は、特別そういうのに厳しいわけじゃない。

 まあ、表向きは不純異性交遊禁止とはなっているが、不純じゃないってことかな?


「まあ、そうだな。親御さんがなかなかいらっしゃらないから、三者面談とかが難しいのも問題でな。帰ってくるときが決まったらまた連絡をくれると助かる」


「はい。それはもちろん。親とも相談したいですしね」


 娘さんを俺にくださいとか、やったほうがいいのか?

 いや、あのご両親だ……あっさり承諾される気がする。


 そんなことを考えながら、進路相談は進む。

 資格等は取るほうがいいということや、学歴のこと。

 それが全てじゃないけれども、最初の印象としては高卒と大卒では硬い大人相手には違うだろうということ。


「先生は、馬鹿なことを言うなって否定はしないんですね」


「まあ、凡人としては、リスクに挑まない方がいいんじゃないかとは思うが、反発からその道に進ませると、人間意固地になるって知ってるからだな」


 そういえば、先生の息子さんはバンドで有名になるって飛び出していったんだっけ。

 そんなところの、後悔があるのかな?


「よく考えます。なんなら、今ならネットで輸入って方法もありますしね」


「そうだな。じゃあもういいぞ」


 礼をして、退室。

 緊張した体をほぐしながら歩いていると、佑美が飛び込んできた。


「お疲れ様!」


「ああ、聞いたぞ。永久就職なんて書いたって?」


 誰かに聞かれるとまたそれはそれで面倒そうなので、少し小声。

 結果、耳元で囁くようになってしまったのはお約束だ。


「だって、そうだもん」


「もんってなあ……まあ、いいけど」


 実際、俺としても一緒に働くのならともかく、隣にいない人生は、考えたくない。

 その点では、別に間違ってはいないのだけど……。


「いきなり、向こうに行けなくなるかもしれないんだ。その辺は考えないとな」


「あー……そうだよね。あ、そうだ。花火って買っておくと湿気っちゃうのかな?」


 今日はもう、このまま帰宅していい時間。

 つまりは、佑美は俺の番が終わるまで待っていてくれたということだ。

 そのことがどこか嬉しくて、気分が高揚してくるのがわかる。


「物にもよるだろうけど、時間が経つと良くはないだろうな。缶に入れて、乾燥剤なんかも一緒なら結構持つとは思うぞ」


「そっかー。ほら、魔法が使えない環境だってあるかもしれないから、いざという時に持っておこうかなって」


 なるほど、確かにそれは大事だ。

 日本では、武器の携帯だとかはできないから、入手手段も限られる。

 素人で、学生が手に入るもので異世界に……だとやっぱりそのぐらいだ。


「火もあるかわからんから、かんしゃく玉ぐらいか?」


「うんうん。そうする。実は、今度町の依頼でちょっと遠いところに行くんだ。あ、もちろん女性の冒険者さんとかもたくさんいるよ」


「……それだけの相手、か」


 単純に、ごく単純に考えてもそれだけ数が必要な危険があり得るということだ。

 でも、ここでそれを説明したとしても直接彼女の危険を減らせるわけじゃない。

 行かせない、ということが難しいし、向こうでも参加しないというのも難しいだろう。


 自分に出来ることがあるのに、放置することができるような性格じゃないのだ、お互いに。


 悔しさは、もちろんある。

 ゲームの世界じゃないけれど、ゲームの世界のような場所にいる佑美。

 そんな彼女の、直接の助けになれない現実。


「私がさ、頑張れてるのはたっくんのおかげなんだ」


「……そうか?」


 嘘……とは感じない。

 ただ、実感があまりないのも確かだ。

 居場所で、帰る家になるというのも、嘘じゃないのだけど。


「帰らなきゃって思うから、頑張れる。お話したいから、帰ろうと思える。一緒にいたいから、ちゃんと生き残らないとって思えるんだ。一人だったら、戻ってこなくって大騒ぎになってたかもね」


「そっか。ありがとな」


 夏と比べ、少し火の落ちるのが早くなった午後。

 長く伸びて来た影が、そっと重なる。


 そして、いつものように佑美を送り出した後、携帯が鳴る。

 届いたメールの中身は、両親からの一時帰国の知らせだった。



金曜更新、次回で区切りとなります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ