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OIS-033「君の隣に僕がいる」



 佑美の変化は、俺から見ても確かな物になった。

 やること、目指すことに対する悩みとかが減ったから、吹っ切れたともいうべきか。


 とある日曜の朝。

 軽く食事を終え、テレビを見ている時間はある意味、貴重。

 2人暮らし状態のリビングも、まるで我が家のように慣れて来た。


「昨日はね、聖水みたいなのを作ってみたんだよ」


「水に癒しの魔法を込めて、みたいなか? ってかこれだろ?」


 まるで冷えたレモン水のように、妙にさっぱりした水を飲んだところでこれだ。

 佑美は、こうして異世界の物や、あっちでの成果を俺に見せるのが楽しいようだ。

 幸いなことに、今のところは互いの世界に病気は出ていない。


「わかるー? すごいよね。ただのお水が、高級品だよ」


「まあな。なんだか二日酔いも治りそうだ。なったことないけど」


 実際、飲んですぐに頭やお腹周りがすっきりしているように感じる。

 これでカフェでもやったら人気が……いやいや、逆にそうなったらばれるのが怖いな。

 最近の世の中、いつどんな取材やらが来るかわからないものだ。


 グラス越しに見る佑美は、笑顔だ。

 こうして俺と一緒にいるのを楽しんでいる……そう思いたい。


「たっくん、悩んでる?」


「ん、そうか?」


 今度は、俺が聞かれる番だった。

 少しとぼけてみるが、わかるよーなんて言われてしまえば、それ以上は反論できない。


 悩み、悩みか……そうだな。


「いつもありがとうな。こうやって異世界の物、楽しめて嬉しい」


「それはこっちの台詞だよ? 少しでも一緒の経験が出来たらなあって持ってきてるんだー」


「だからって変な仮面とかはやめてくれよ? 本当に呪いとかありそうだし」


 実のところ、部屋にある変な置物も怪しいのだが……まあいいか。

 現地で、幸運のお守りだって言われてるとなれば、否定できない。


 異世界の事を語る佑美は、基本は笑顔で、楽しそう。

 実際、とても楽しいのだと思う。

 現実の地球じゃ、俺たちは学生で、やれることは限られてる。


 けれども、向こうでは自分の命という物が天秤にあるけど、自由だ。

 そのうえで、色々とどうにかできる力があるというのは、楽しいと思う。


「そのさ、佑美が向こうで頑張って、単純な意味で強くなったら、俺がこっちで出来ることはどんなことだろうなって。目指している物はあるけれど……佑美みたいに直接は強くなれないからさ」


 今のところは、目に見えるほどに違いはない。

 でも、確実に腕力なんかも含めて単純に、ものすごく単純に佑美は強くなっている。

 うっかり全力で走らせてしまえば、すぐに問題になるだろうことはわかり切っているほどだ。


 見た目に筋肉もりもりになっていないのは、不幸中の幸いとでもいうのだろうか?

 間違いなく、階位、レベルアップによるものだ。

 佑美曰く、何もしないといつものままで、体を魔力で強化しているような感じだという。


「ああー……その辺の特訓もしないと、危ないよね。ドアノブとか漫画みたいにちぎっちゃいそう」


 笑いながらいうが、ある意味笑いものじゃあない。

 向こうの冒険者の類は、強くなれば巨大な怪物相手とも戦うのだから、当然といえば当然だ。

 出来れば、佑美には普通の女の子でいてほしい。


「武器を振り回してる人ほどじゃないけど、やっぱり階位が上がると違いを感じるよ。でもね、私にはたっくんが必要なの。ううん、そばにいてほしい」


「佑美……」


 ぎゅっと、手を握ってくる佑美は普通の女の子だ。

 握られた手も、別に痛いとかそんなことはない、しっとりと温かい。

 ふわりと漂う香りに、ドキドキするのを感じる。


 それは、握ったままの手から佑美にも伝わったはずだ。


「もし、どうしても自分以外の人をつれていけないってわかったら……異世界に行くの、やめようかなって考えてた」


「! それは……嬉しいけど、佑美のやりたいようにやるべきだと思う。なんていうかさ、もう関わっちゃったんだ。だから、気になるのに途中で投げ出すのは、多分気持ちよくない」


 ただの自己満足に終わるかもしれない、そんな立場が今の佑美だ。

 だからこそというべきか、自分が納得いくまで、やりたいようにやればいい。


 そうはいっても、気になる物は気になるというのが人の性。

 

「やっぱり、今度父さんたちが戻ってきたら、話そうか。というか、そうじゃないと高卒で自営業で働きます!は説得できない気がする」


「そ、そうだね……わけがわからないよってなるよね……」


 佑美も、秘密を話さずにいることの厄介さに気が付いたのだろう、焦った表情だ。

 俺は少し緩んだ手を握り返し、佑美を見る。


「横に立てるのが一番だけど、そうじゃなくても俺がお前の居場所、帰る家になりたい。いいか?」


「良いも何も、そうじゃなきゃ、嫌だな。よろしくお願いします」


 言い切ってから、まるでプロポーズだなと感じていた。

 それは、顔を赤くしている佑美も同じみたいだった。


 2人して、そのままもじもじとしていると、部屋の時計が大きく鳴った。

 びくんと、跳ねるようにして離れ、時間を見ると……ああ、もうこんな時間だ。


「昼食べたら、勉強しておこうか。どうせ今日も向こうにいって、月曜からの予習やるタイミングないだろうし」


「うん。健康的で、真面目な生活してるなー、私たち。あ、でもみんなからすると、友達付き合いが悪くて、家に2人きりでよくいるバカップルなのかな?」


 自覚があるのかないのか、そんなことを呟いて、佑美は勝手に赤くなっていく。

 こういうところが可愛いんだけど、外だとこっちも恥ずかしいだろうから気を付けてほしいところ。


 恥ずかしさを誤魔化すために、キッチンへと向かい食事の準備を始めるのだった。




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