OIS-030「スイートポテト狂騒曲」
「休みの日に、農協にいる高校生ってどうなんだろうな?」
「え? いいんじゃない? 勉強になるよ」
朝から呼び出され、すわデートかと思いきや、向かった先は町内の農協さん。
ガーデニングや畑のあれこれが売っている場所と、スーパーみたいな販売所がセットになってるアレだ。
ここは少し規模が大きく、農機具なんかも売っていたりするのだ。
佑美の言うように、色んな道具だとかを見ることはできる。
実際に手に取ってみると、確かに現代の道具がいかに進化してきたかがよくわかる。
機械のないような異世界で、再現できるものは限られてるだろうけど……。
「サツマイモ、育ててみようかなあって」
「……あっちでか?」
一応、周囲に他の人もいるので具体的には言わず、わかるようにつぶやいた。
頷きが返ってくることで、予想が肯定される。
異世界でも畑仕事をしてるから、こっちでも育ててみたい……ではなく、だ。
「向こうにも計画とかあるだろ、大丈夫なのか?」
「空いてる場所なら、試していいよって言われてるんだ~」
ここ最近は、俺も向こうに持ち込むものにあまりうるさく言えなくなってきた。
もちろん、ガラス瓶だとか容器の問題があるやつはまだとめている。
本当なら、野菜1つもよく考えたほうがいいのだが……。
「探せば、近い種はあるか……」
異世界にも、全く同じではないだろうけど、原種はあると思う。
それに、他の国とかだと栽培されている可能性だってあるのだ。
多少早いか遅いか……ということにしておこう。
「あのー、私たち庭で育ててみようと思うんですけどどれがよさそうですか?」
「ああ、なら……この辺かな。スマホでちょっと調べると方法は出てくると思うよ」
少し考えている間に、佑美は店員さんにそんなことを聞いて苗を買っていた。
荷物を持って、帰り道。
「で、急にどうしたんだ?」
「んー、向こうだと、お腹いっぱい食べられないんだよね。税金、じゃないや、年貢みたいなので」
今までの話を総合するに、佑美のお世話になっている村は特産の果物があり、当然主食となるものも育てている。
冬に餓死者が出るようなレベルではないようだけど、それでもまあ、余裕はあまりなかったようだ。
そんな村が、佑美の力と、持ち込んだあれこれで上向いている……と。
「あー、一番もどかしいタイミングか。成果が出れば余裕が出るはずだけど、と」
「そうそう。来年には畑ももっと収穫できると思うの。でも、収穫が主食に偏ってるのって危ないよね?」
歩きながら思い浮かべるのは、小麦粉ベースで考えたときと、いわゆるお米ベースで考えた時の話だ。
土地の準備や、世話は大変だけど土地の広さに対する収穫量は、お米というか稲が他を突き放している。
よく、小麦畑がものすごく広かったりするのだけど、あれはその広さがないと収穫量が割に合わないと何かに書いてあった。
(異世界の小麦だと、話は違うかもしれないが……)
「後はあれだな。授業でも習ったけど、連作障害みたいなやつ」
「うんうん。畑の力が無くなるんだよね? 向こうでも、女神さまの祝福が減ってるからって、土地を休ませてるみたい。だから、広いけど何もやってない場所が多いんだよ」
こうして異世界の事を語る佑美は、どこか楽しそう。
実際、楽しいんだと思う。
俺もこうして協力してて楽しいし、これからもこういうのが続けばいいな、と思う。
思って……いたのだけど。
「た、たっくん助けて!」
「自業自得だろ……だから癒しの魔法は使い方に気をつけろよっていったのに……」
その日、異世界から戻ってきた佑美の手には、大量のツルと芋。
向こうに苗を持って行ってまだ実質数日だというのに、だ。
原因はすぐ予想が付く。
向こうでちゃんと育つか心配な佑美が、植えたら魔法をかけてみると言っていたのだ。
ちなみに、癒しの魔法には2種類あるようだ。
1つは、外部からの力で癒す方法。
もう1つが、対象の回復力を高める方法。
回復力、と言えば傷が治るとかだけ感じるだろうけど、実際は違うとみていた。
要は、相手の代謝を早くしているのだ。
つまり、使い続けると相手の寿命が縮まる。
今回の状況に当てはめると、サツマイモの生育が早まったということなんだろうな。
「だって、ちょっと使ったらすぐに伸び始めて、水をあげてもあげても吸っていくし、どんどん伸びたんだよ」
「たぶん、人間相手と同じ量の魔力を注いだんじゃないか?」
見ていない俺だけど、佑美が何をしたかは大体想像がつく。
アニメとかで見たように、大きくなあれとばかりに手加減無しで魔法を使ったのだろう。
結果は、早回しのように育つサツマイモってわけだ。
「あっちにいったら、畑に腐葉土を入れていかないと……っていうか、ちょっと待ってろよ」
「う、うん」
いい加減、自室にツルのままサツマイモがあるのはマズイ。
土は大体落としてあるみたいだけど、掃除機は必須だな。
結局、ゴミ袋にひとまずツルと芋は退避し、後は掃除機をかける。
その間に佑美にはシャワーを浴びてもらい……なんていうか、主夫みたいだな、俺。
戻ってきた佑美は、落ち着いた様子だった。
「次は気を付ける!」
「まあ、そうだな。でも、向こうでも美味しく食べられそうだな」
「うんうん。甘いって言ってた!」
キラキラした佑美の瞳。
その意味するところは1つ。
「手伝いぐらいは、しろよ?」
「勿論!」
結局、しばらくは食卓に必ずサツマイモが登場することになる。
ツルを煮て食べられるっていうのを知れたのは……まあ、知識面での収穫だろうか?
弁当に入れていって、級友に田舎の老人か!とからかわれたのは言うまでもない。




